ハラスメントにも、その定義付けによって「●●ハラ」という言葉の種類が増えてきた。その中でも「フキハラ」(不機嫌ハラスメント)というワードがある。意図的ではなくても、口調や態度に思わず出た〝不機嫌〟と受け止められる反応に対し、相手から「ハラスメント」だと抗議された時、どう対処すべきか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏がその対策について解説した。
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【今回のピンチ】
部下が作った資料を見たら、書き方を丁寧に教えたはずなのに、あまりにも不備だらけの内容だった。思わずため息を吐いたら、部下が「フキハラはやめてください」と……。
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昨今話題の「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」は、不機嫌な態度や言動で相手に不安感や威圧感を与えること。「それ、いつも上司にやられてる」「ウチの夫(妻)が、日常的にやってくる」と思う人も多いでしょう。
「不機嫌な態度」は、一種の暴力です。「人間だから機嫌が悪いときもある」という問題ではありません。フキハラの多くは相手を選んで不機嫌をぶつけているのが、なんともズルいところ。「フキハラ」という言葉が広まることで、被害者側も加害者側も、タチの悪さや深刻さを認識できる効能はありそうです。
いっぽうで、新しい言葉が広まると、それを「悪用」するケースも出てくるのが世の常。この部下も、自分が作った資料がダメダメだったことは棚に上げて、上司のため息という「非難できそうな相手の落ち度」に食いついています。この場面では、姑息で卑怯な自己正当化でしかありません。
ただ、本人はすっかり自分が「被害者」のつもりでいます。「そういうことは、まともな資料が作れるようになってから言え!」と叱責したら、今度は「パワハラです」と騒ぐでしょう。上司としては、こんな部下でも育てる義務があります。厄介でややこしいピンチをどう切り抜ければいいのか。
「困った資料を見てため息を吐くのは、単なる生理現象だ。何でもハラスメント呼ばわりする“ハラハラ”はやめてくれ」と反論しても、相手は納得するどころか、ますます被害者意識をこじらせるでしょう。
本音としては「俺のため息がフキハラだとしたら、ダメな仕事っぷりで上司を困らせるのはダメハラじゃないのか」と言ってやりたいところです。それも一面の真理ですが、ここで売り言葉に買い言葉をやっても仕方ありません。しかも、ここまで言ったら、部下との関係が完全に決裂してしまいます。
いろいろ言いたいことや釈然としない部分はありますが、いったんは「今のため息はよくなかったね。申し訳ない」と謝っておきましょう。そうしないと部下が聞く耳を持たなくなって、話が続きません。
その上で「どうしてこういう資料になったのか、説明してくれないか」と、自分が作った資料のダメっぷりと対峙させます。続いては、あくまで冷静に、何が足りないか、どの部分に問題があるかを指摘しましょう。結局は「上司としてやるべきことをやる」のが、ピンチを乗り切る王道です。
ただ、上司だからといって、理路整然と資料の不備を指摘できるとは限りません。何をどう言っていいのかわからないと、つい不機嫌な態度を取ってしまいそうです。もしかしたら「能力がない上司ほどフキハラをしがち」という傾向はあるかもしれません。
そんな絵に描いたような構図にはまるのは、じつに残念です。自分がどんな立場にせよ、「不機嫌」を便利に振りかざす甘い誘惑には、くれぐれも負けないようにしましょう。