紋次郎から半世紀、中村敦夫は今 朗読劇がコロナ中断もDVDで上映会模索 高校後輩の坂本龍一さん悼む

北村 泰介 北村 泰介
ライフワークとなった朗読劇のDVDを制作した俳優・中村敦夫。83歳の今も表現者として社会問題と向き合う
ライフワークとなった朗読劇のDVDを制作した俳優・中村敦夫。83歳の今も表現者として社会問題と向き合う

 「あっしには関わりのねぇことで…」。長楊枝をくわえて発するセリフが流行語になったのは半世紀前のこと。大ブームを巻き起こしたフジテレビ時代劇「木枯し紋次郎」シリーズ(1972-73年放送)の主役・中村敦夫は、83歳になった今も社会問題と向き合った表現活動を続けている。2017年から始めた朗読劇「線量計が鳴る」はコロナ禍のため中断しているが、その逆境を克服すべく、公演内容を収録したDVDを昨年制作し、今年4月には英語と日本語の字幕版を新たに発売した。中村がよろず~ニュースの取材に対し、その経緯や作品に込めた思いを語った。

 2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故に衝撃を受けた。

 「当時、私は政治的、社会的な活動から遠ざかっていた。02年に参議院で環境政党(みどりの会議)を立ち上げ、全国区で展開したのですが、関心を持ってもらえず(04年解散)、政治家を引退せざるを得なかった。そこで、この私にできることは何かを考えた時、やはり、物を書き、演じること。それは一人でもできますから」

 作家として日本ペンクラブの理事を務め、環境委員長だった時に「3・11」に直面した。

 「周囲で原発の危険を訴える人も少なかったため、私は『チェルノブイリに行こう』と提案し、当時の会長だった浅田次郎さんら日本ペンクラブから7人の代表が、いま戦争の渦中にあるウクライナのキーウを拠点にチェルノブイリに行き、これは大変な問題だと気づいてくれた。その責任は果たせた一方、私個人としては表現者としてどうしたらいいものか?映画や演劇などの大規模なものではなく、1人でやれてインパクトのある方法で…と考えた末にたどり着いたのが朗読劇というスタイルでした」

 全国を巡回した。〝朗読劇〟と銘打つが、実質は一人芝居。リュックを背負い、線量計を手にし、2時間近く立ち続けて、元・原発技師という役を演じる。脚本は2年かけて自ら執筆。独白には喜怒哀楽、歌も混じる。その上で、詳細なデータを元に、原発の問題点や背景、被ばくの危険性、事故の実態などが平易な言葉で語られる。

 「先生が上から目線で啓蒙していくのはなじみにくい。一番分かりやすいのは原発の技術者が当事者として体験に根ざして語ること。そこから問題の本質が明確に浮き上がってくるという構図です。どうしても理屈っぽくなってしまうため、何度も書き直しながら、地元で生まれ育った技師が東北弁でやったらどうかと思いつき、スムーズに書けた。私も小学生の時から福島県で育ったので東北弁でやることのリアリティーが出てきた。長野県でやった時は、終演後に聴衆の一人が来て、私を本当の原発技術者だと勘違いして『あなたは原発の現場をクビになったらしいけど、退職金はちゃんともらったのか?』と真剣な顔で聞かれた。方言はリアリティーを生むのだなとビックリしました」

 だが、コロナ禍で公演は100回の節目を目前に中断。一時的に感染者が減少した20年11月に長野市で開催した95回目の公演を最後に、休演を余儀なくされている。その困難を克服すべく、演じる姿を撮影したDVD(西日本出版社、税別1500円)を制作した。

 「3年休んだ。年齢と共に声も衰え、全国を旅しながら長時間演じるのは体力的にもつらくなる。コロナ禍で公演ができないことに加え、そうした状況もあって、後世に残すという意味でもDVDにした。本職の人が半ばボランティアで撮影してくださり、立派なものになった。これで、私が行けなくても各地で上映会ができる。今春、新たに出した英語版の翻訳は素晴らしい出来です。日本で起きた原発事故ですが、ユニバーサルなテーマとして海外には関心を持つ人が多いので英語字幕を付けた。日本語字幕版はろうあの人たちのためです」

 昨秋にはカルト宗教の実態を描いた小説「狙われた羊」(講談社)を30年ぶりに文庫版で復刊。「表現者が忖度してしまったら、国全体の品格も落ちてしまう」という。

 表現活動と社会問題に声を上げることが共存する姿勢は、都立新宿高校で一回り年下の後輩であり、今年3月に死去した音楽家の坂本龍一さん(享年71)とも共通する。「彼とは対談もしたし、コンサートにも招待された。世界的に活躍するミュージシャンとして高い問題意識を持っていた。いちいち説明しなくても分かり合えるので、同じ人種だなと思いました。だから残念です」と悼んだ。

 紋次郎ブームから50年。「市川崑という大監督の主導で新しい映像、先端的な表現に満ちた作品でした。市川さんは東京オリンピックの映画もそうでしたが、自分の意志を貫き通して新鮮な映像を作った。どのジャンルでもそうあるべきです」。その精神は現在の朗読劇にも受け継がれている。公演再開は未定だが、今後はDVDの上映会も模索していくことになりそうだ。

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