明けましておめでとうございます。この記事が出るころには、街中があの動物で埋め尽くされていることでしょう。
そう、ウサギです。
普段は動物の生物学的な知見からお話することが多いので、今、博士課程で研究テーマとしている表象文化論の視点を加えてウサギの面白さを伝えていけたらと思います。
物語の中で有名なウサギとして間違いなくピーターラビットの名前はあがるでしょう。
ピーターラビットのモデルとして、しばしば「ネザーランドドワーフ」という小型の品種が挙げられますが、恐らくこれは誤りです。ピーターラビットは、作者ビアトリクス・ポターが1893年に手紙の中に描いたウサギを原型とし、1902年に絵本として出版されました。ネザーランドドワーフが作出されたのは、20世紀初頭でイギリスには1948年とポターがこの世を去ってから初めて輸入されます。ピーターラビットのモデルはポターが飼育していたアナウサギと推測されています。
ウサギを表象として考察するとき、アナウサギとノウサギの2種類に分けられます。私たちの身近にいるウサギはおおよそアナウサギだと思って間違いありません。英語のrabbitもアナウサギを指します。ノウサギに比べて四肢が短く、丸っこいずんぐりむっくりとした体つきをしています。
アナウサギもノウサギ(英語ではhare)も同様に多産の象徴とされますが、一度に4~10頭の子を産むアナウサギに対し、ノウサギは1~4頭とさほど産児が多い印象はありません。
ウサギの多産のイメージは、決まった繁殖期がなく、一年を通して出産できる性質と重複妊娠という性質によって形作られたと考えられます。
大プリニウス(紀元23~79年)は既に妊娠しているウサギが更に受胎するという重複妊娠という性質を知っていました。重複妊娠をする唯一の動物だと思っていたり、その回数を誇張したりなど実際とはややかけ離れた認識ではありますが、この性質に古代の人が強い関心を示したことの表れとも言えるでしょう。
多産以外にウサギに結び付けられたイメージとしては月があります。
私たちは夜空に輝く月を見て、その陰影にお餅をつくウサギの形を見出そうとしますが、日本だけではなく、アフリカや北米、南米でも月の陰影をウサギの足跡や姿に喩えることがあります。
日本の月の兎は、自ら火の中に飛び込んで老人の姿の帝釈天にその身を捧げた仏教説話が由来とされています。
生態系においては被食者としての側面が大きいため、国・文化・時代によっては臆病さや死の恐怖と結び付けられるウサギですが、同じ性質を見て、挑戦者や救世主、温和さとイメージづけされることもあります。
挑戦者としてのウサギがとても魅力的に描かれている物語に、『シートン動物記』の「小型軍馬」をおすすめして終わりにしようと思います。
今年もどうぞよろしくお願いします。