なぜ「月にウサギ」の伝説が生まれたのか?インド由来で日本に伝わる、自己犠牲の動物、南米にも登場

深月 ユリア 深月 ユリア
画像はイメージです(あ こ/stock.adobe.com)
画像はイメージです(あ こ/stock.adobe.com)

 十五夜の「月見」シーズンは過ぎたが、深まる秋に月をながめて心穏やかになる日々は続く。ところで、月に関係する動物といえば、ウサギが連想される。なぜ「ウサギ」なのか?海外にも「月とウサギ」の言い伝えはあるのか。ジャーナリストの深月ユリア氏が専門家に取材し、南米に残る伝説も引用した。

   ◇    ◇    ◇

 秋は空気が澄んで月が美しい季節だが、日本では古来、月の影がウサギに見えることから、「月にはウサギがいる」という伝承があった。

 実は「月にウサギがいる」という伝承は日本のみならず、アジア各地にある。というのも、「月のウサギ」の由来はインドの仏話「ジャータカ神話」に始まるという。浄土真宗の僧侶である酒生文弥氏によると、「ジャータカ神話の輪廻(りんね)転生を繰り返すお釈迦(しゃか)様の話が、日本にも伝わり『今昔物語』となりました」

 今昔物語の「三獣行菩薩道兎焼身語」には次のような物語がある。

 「今は昔、あるところに仲良しのウサギとサルとキツネが住んでいました。ある時、三匹は力つきて倒れている年老いた旅人に出会いました。三匹は旅人を助けようと、食べものを集めることにしました。サルは木の実を集め、キツネは川から魚を捕りましたが、ウサギは頑張っても何も取れませんでした。『何とか旅人を助けたい』と考えたウサギは、火を焚(た)いてもらい、そこに自らの身を投げ入れて食べてもらうことにしました。その姿を見た旅人は、帝釈天(たいしゃくてん)に姿を変えて、ウサギの捨て身の自己犠牲が世界中に知れ渡るように月にウサギの姿を描きました。素晴らしい菩薩行(ぼさつぎょう)ですが、実はこのウサギはお釈迦様の前世だったのです」(酒生氏)。

 月の表面の雲のようなものは「うさぎが焼け死んだ煙」だともいわれている。

 「三獣行菩薩道兎焼身語」には 「ウサギが月で餅つきをしている」描写はないが、「ウサギの餅つき」の由来は、古代中国の「月のウサギは杵と臼で不老不死の薬を作っている」という伝承にあるという。日本では、薬が餅となった理由に関しては、「ウサギが帝釈天のために餅つきをしている」「ウサギが食べ物に困らないよう餅をついている」、「満月を意味する望月(もちづき)と餅の枕詞だ」などさまざまな説がある。

 「月にウサギがいる」という伝承はメキシコの神話にもある。

 「図説 マヤ・アステカ神話宗教事典」によると、アステカの神話に、「地上で人間として生きていたケツァルコアトル神が、長い旅の疲れで、食物も水も枯渇して死にそうになっていた。その時、近くで草を食べていたウサギがケツァルコアトルを救うために自分自身を食物として差しだした。ケツァルコアトルは“誰もがウサギを思い出すように”ウサギを月に上げた」というものがある。

 他の南米神話でも「第5の太陽の創造する為にナナワツィン神が自からを火の中に投じて新しい太陽になった。テクシステカトル神は臆病で、火の中に身を投じるまで4回ためらい、5回目にウサギの姿で自らを犠牲にして月になった(臆病がテクシステカトル神だけでは月を創るのに不充分だったので、他の神がウサギも火に投げた、という説もある)」という話がある。

 不思議なことに、文化・宗教は違えど、やはり「ウサギが捨て身の自己犠牲をしている」話である。人類の集合的無意識(ユング心理学でいう特定の集団に共通する無意識)があるのか、ひょっとしたら、歴史上明らかにされていないが、インドの神話が南米に伝来したのか。いずれにしても、古今東西、人類は月を見て「ウサギ」を連想していたということだろう。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース