なんでパンを食べたら「楽勝」なの? 「朝飯前」に隠された諸説ある語源 海外駐在記者が説明

島田 徹 島田 徹
画像はイメージです(Chiristsumo/stock.adobe.com)
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 我々の日々の生活の中では、身近ものを用いて直接関係ないことを示す表現がある。おそらくどの言葉でもそういった傾向はあるのだろうが、スペイン語でも同様でパン(pan)を使って「簡単」「何の問題もない」という言い方をすることがある。

  Pan comido(パン・コミード、またはser pan comido=セール・パン・コミード)といった形で使われ、「この仕事(勉強)は君にとっては楽勝だよ」と言う時などに使われる。

  直接的には「食べられたパン」がなぜ「朝飯前」といった形に変化するのかー。語源を説明している専門サイトにはいくつかの説が出ている。一番分かりやすいところから挙げていくと、パンは他の食材よりももっとも簡単に調理・入手できる食料だから、というもの。

 比較的これに近いのはスペイン内戦(1936–39年)のあと疲弊した国内情勢下で生まれたとするもの。食料確保が困難な時期に「パンさえ食べておけばあとは何とかなる」といった意味合いだったとしている。

  ただ、全く異なる見解もある。もともとはことわざだった一つの文章の前半部分だった、というものだ。

 それは Pan comido y la compañia desecha(エス・パン・コミード・イ・ラ・コンパニア・デスエチャ)というもので、「パンを恵んでもらったら、それまでの縁がなくなる」という意味だったという。17世紀初頭のセルバンテス著のスペインの代表的な小説、ドンキホーテの中で、主人公の従者サンチョ・パンサも作中で口にしている。

 日本的には「一宿一飯の義理」を果たさず、得るものだけもらってサヨナラすることが「簡単」に転じたということになる。このことわざは17世紀ごろには非常によく使われていたが、その後一度は市民権を失ったものの19世紀に入ってから前半部分だけが復活したという。

  真偽のほどはともかく、多くの人たちにとって共通する感覚や価値観が表現になり使われる頻度も増えるといったところか。その中には一度は存在感がなくなりながらもその後社会情勢や世間的な必要性によって形を変えながら使われるということもあるらしい。

  年始はおせち料理など普段よりも飲食の量や機会が増えがちなもの。「簡単に」腹をいっぱいにするだけではなく、お世話になった誰かに思いを馳せるのも一年の滑り出しとしては悪くないかもしれない。

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