「カイジ」は次章で完結、福本伸行氏が明言 ギャンブル漫画の達人「根っこ」は若き日のヒリヒリ体験

山本 鋼平 山本 鋼平
「逆境回顧録 大カイジ展」の会場で特製クレープを手にする福本伸行氏
「逆境回顧録 大カイジ展」の会場で特製クレープを手にする福本伸行氏

 「僕は20歳から、漫画の持ち込みを始めました。かざま先生の他のアシスタントは絵がうまいから、すぐに原作者がつくんですよ。僕は絵がヘタだから原作者がつかないので、話を自分で考えるしかない。20歳から45年間、ずっと話を考えています。体験がそのまま漫画の話に飛ぶことはないですね。

 うまくいかなかった経験もストーリー作りでは種になります。惨めな思いをすることは、普段の暮らしでは嬉しくないけれど、僕は話を考える人間だから、そんな感情を学校、職場、バイト先、ゴルフ仲間の中だったら〝どういうイヤミが一番嫌か〟などに考えます。(『二階堂地獄ゴルフ』で)研修生を辞めさせられた二階堂が、(後輩の研修生)桐島に「オレなんか周回遅れのランナー」と言うと、桐島から「アンタ オレ達と同じグラウンド回ってませんから」「先輩は町内をグルグル回っているジョギング愛好家でしょ?」と言われて、主人公がググッと押し黙る。それが漫画の面白さ。いつもそんなことを考えています」

 二階堂へのイヤミのように、福本作品は作中の名言集が出版されるなど、吹き出しの強さが特徴的だ。

 「言葉は前もって用意できる場合もあるし、その場のノリで出るケースもある。漫画を読む快感はリズム。漫画は会話に近いと思っています。僕の作品はセリフが多いけれど、読者に理解させながら進み、モヤモヤさせないように気をつけます。複雑なことでも分かりやすく、その中でキレを出すように心がけていますね」

 映画からの影響については「漫画家でものすごく映画を見る人に比べたら、全然ですよ」と言い「だって好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、黒沢明監督の作品、最近だと『カメラを止めるな!』ですもん。この時点で分かるでしょ」と笑った。

 ただ、デビュー当初に描いた人情漫画への愛着は強い。「アカギ」「カイジ」のヒット後に開始した「黒沢」「二階堂」へと昇華させた。休載中の「カイジ」でも、現在の「24億脱出編」では、逃亡生活の中でカイジとチャンとマリオが、帝愛の追っ手を振り切る展開が描かれている。福本氏は「ギャンブルではないけどヒリヒリする部分と、ちょっと笑っちゃう部分を総合力で漫画にしています」と語る。

 5月12日まで開催中の「逆境回顧録 大カイジ展」(東京ドームシティ・ギャラリー アーモ)では、原画とともに「限定ジャンケン」「鉄骨渡り」「焼き土下座」「沼」などをモチーフとしたフォトスポットが満載。最後に「カイジ」の今後を聞いた。

 「そろそろ24億編は終わるべきです。いろんなチャレンジができました。簡単に言うと、漫画って主人公がピンチになり、それをどう解決するかが基本。ギャンブルなら勝ち負け、24億編なら追われていく中で車のガソリンがなくなるとか、デパートで帝愛にマークされるとか、チャンが広島でロッカーの期限までに戻れるか、とか。いろんなピンチの形を箱庭にように作ることができました。24億円は重さが240キロありますから。実際に24億円を現金で手にしたらどうするか。リアルに考えたら面白い発見がたくさんありました」

 そう成果を語った福本氏。その先の次章で「カイジ」が完結すると明言した。

 「24億編はギャンブルとは関係なく終わる予定ですが、その次にもうひとつギャンブルを描きます。それで『カイジ』を締めくくるのが美しいと考えています」

 常に温厚な様子が印象的だった福本氏。ほのぼのとした、人情味あふれる24億編から、カイジたちはどのようなギャンブルに挑むのか。楽しみに連載再開を待ちたい。

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