時代を超えた漫画「ハートカクテル」の魅力 わたせせいぞう画業50周年で企画続く、サントラCDも

北村 泰介 北村 泰介
2月にリリースされたCD「ハートカクテル オリジナル・サウンドトラックス」。原作者・わたせせいぞう氏が選曲し、ジャケットも描き下ろした
2月にリリースされたCD「ハートカクテル オリジナル・サウンドトラックス」。原作者・わたせせいぞう氏が選曲し、ジャケットも描き下ろした

 1980年代に大ブームを巻き起こした漫画「ハートカクテル」。都会の恋愛模様をカラフルに描いた作品は生活の豊かさを求めた時代とリンクしたが、今もなお作品が生み出されている。40周年の昨年には「大ファン」を公言する歌手・俳優の亀梨和也(37)らが声優を務めたアニメ「ハートカクテル カラフル」がNHKで放送され、その音源も収録された集大成的な2枚組のサウンドトラックCDが2月にリリースされた。今年は原作者・わたせせいぞう氏(78)の「画業50周年」となり、書籍刊行や展覧会が続く。作品の魅力について関係者に話を聞いた。(文中一部敬称略)

 「ハートカクテル」は漫画誌『モーニング』(講談社)で83年から89年まで連載。その間、テレビアニメやドラマ化もされた。連載終了後の90年代から今世紀にかけても、再構成した傑作選や自選集、電子書籍などに形を変えながら、リアルタイムな作品として新たなファンを獲得している。

 まずは原点となる80年代の時代背景について、CDの企画・構成を手掛けたライターで編集者の濱田高志氏は「今でこそ珍しいことではありませんが、連載当時、週刊誌で毎週4ページのカラー作品のレギュラーを持っていた漫画家は他にいなかったはずです。大人漫画の分野で2色ページはあったでしょうが、オールカラーというのが重要ポイントです」と指摘した。

 作品の登場は日本の「バブル景気」前夜で、ブームはその絶頂期と重なった。濱田氏は「そこで描かれているのは、リッチな雰囲気に満ちた憧れの世界であり、そこが多くの読者に支持された最大の要素だと思います。一方、それを表層的に捉えた読者の中には『絵空事』と感じて、無関心、あるいは反発を覚えた方がいたかもしれません」と当時の状況を両面から説明した。

 それでも、〝オシャレ〟な一過性のブームとして消費されることはなかった。バブル崩壊後の90年代から今世紀にかけても、読み続けられたのはなぜか。

 濱田氏は「単に〝絵空事〟ではない、現実に根ざした『リアリティ』もあって、そこが共感を呼んでいると思います。それは登場人物の心情だったり、ちょっとした仕草やマナーだったり。あとは季節感。四季折々の樹々や風景が登場しますが、それらは作品に普遍性を与えていると思います」と解説した。

 14日に発売されたCD「ハートカクテル オリジナル・サウンドトラックス」は全43曲。日本テレビ系アニメ「ハートカクテル」(86-88年放送、全78話)のサウンドトラック・アルバム6タイトルから、わたせ氏が選曲し、Webアニメや昨年放送されたNHK最新作アニメの主題曲も加えられた。リゾート感あふれる爽快なリズムや、哀愁を帯びたメロディーなどが散りばめられた珠玉の楽曲群は、ジャズピアニストの松岡直也、島健、テレビ司会者としても知られたクラシック作曲家の三枝成彰らが手がけている。

 ワーナー・ミュージック・ジャパンで今作を担当したディレクター・小澤芳一氏は、大半の収録曲が「イントゥルメンタル」であることについて「歌のない作品は言語に左右されることなく世界中で境界線なく浸透しています」と指摘。また、わたせ氏が大滝詠一のCDジャケットを描き下ろすなど「音楽との親和性」があることに関して「楽曲の一場面をより引き立て、想像をかき立てることに優れている」と見解を語った。

 その上で、小澤氏は新作CDの聴きどころについて「絵、ストーリー、そして、そのために作られた楽曲のマッチング」と共に、「最新マスタリングで劇的に変わった音質向上」を挙げ、「かなりクリアな音質になっており、1音1音の粒立ちは見事に果たされていると思っています」と付け加えた。

 74年のデビューから50周年の節目となる今年、3月に発売される『チョーク色のピープル Complete Edition』(玄光社)など、わたせ氏の書籍が5月までに複数刊行。また、展覧会が3月6-18日に山梨県甲府市の岡島百貨店、5月30日からは東京駅の大丸で開催され、来年にかけて全国を巡回予定だ。

 このように再注目されている「わたせ作品の世界観」とは何か。

 濱田氏は「悲恋、敗北、挫折の物語だとしても、読後、どこかしらぬくもりを感じられる。物語全てを語りきらず、つまりは、起承転結すべてを見せず、登場人物の人生のある一時期、一瞬の場面を切り取っている。この先ふたりはどうなったのだろうか?彼や彼女はその後どうしたのか?明確なラストを描かないことで、その先の未来を読者に委ねるだけの余地を残していて、だからこそ、読者は登場人物に自身を重ねて余韻に浸り、夢想することができる。また、舞台が無国籍風の土地というのも特徴で、それがまた時代の空気と絶妙な親和性があったのではないでしょうか」と総括した。

 時を超えた「不変の普遍性」が、読む人の心を揺さぶるのかもしれない。

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