日本の伝統的な食材を調理した「和食」が世界的に注目されている。女優でジャーナリストの深月ユリア氏が、研究家から和食の特性や心身に与える好影響などについて取材した。
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平成25年(2013年)12月より「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのはご存じだろうか。饗応料理研究家である緋宮栞那(ひみや・かんな)氏によると、日本の食文化は「武士の食卓」だという。緋宮氏の家系は先祖代々、加賀藩の食卓を担ってきたそうだ。
「和食化は縄文時代から始まり、江戸時代に完成された、作法やしきたり、精神性、 時代背景を取り入れた『器の中の歴史書』です 。和食の特性は『(1)質素な日常食』です。 武士は己を律して質素・倹約な生活をしていました。もう一つは『(2)饗応の宴』。 武士は祝いの場では相手の大名との関係を良好に保つために一生懸命『おもてなし=饗応』をします。そして、『(3)自然のリズムと共に生きること』。 自然豊かな日本では和食に四季の『八百万(やおよろず)の神々』からの賜物(たまもの)である食材が使われます。森羅万象の自然のエネルギーを食に込めて、相手の健康を祈ります。まさに、そのような和食=『武士の食卓』によって『和』がもたらされるのです」(緋宮氏 )
和食の『饗応』の習慣のみならず、和食に使われる食材も穏やかな『和』の心を創るという。
「東洋医学の思想によると、血液は腸で作られます。腸が汚れると血液が汚れ、心身に悪影響が出ますので、季節の食材を陰陽バランス良く食べることが大切です」 (緋宮氏)
和食には食物繊維、発酵食品、オリゴ糖が豊富な食材が含められる。 味噌や納豆などの大豆食品には良質な乳酸菌が、 ゴボウやひじきなどの海藻には食物繊維が豊富だ。これらの栄養素は腸内フローラ (腸に住む細菌の生態系バランス) を整える。腸内フローラは我々の身体の免疫系を活性化させ、病気や老化から防ぐのみならず、精神状態や性格にも関連するという研究もある。
「昔ながらの和食は菜食主義で、肉を食べるのは稀(まれ)でした。 牛は『田畑を耕す神』、鶏は『時を告げる神』、魚もマグロを『死日(しび)』」と記載し、縁起が悪い食べ物だとされていました。また、肉は陽が強いので食べ過ぎると好戦的になります。寒い『極陰』の国では、『極陽』の食材である肉やウォッカを摂取して寒さをしのぎますが、摂取しすぎるとアドレナリンが増加します」 (緋宮氏)
緋宮氏によると 「武士の食卓」は「和」をもたらすのみならず、「縁起」も良いという。
「武士は日常的に『縁起稼ぎ』をしていて、それは和食文化にも現れています。お節料理などは典型ですね。例えば、 鯛は『めでたい』とされ、魚には『出世魚』と呼ばれるものがいくつかある。里芋は『子孫繁栄』、たけのこは『芽が出る』、蓮根は『見通しが良くなる』、昆布は『喜んぶ』などとも称されます」(緋宮氏)
腸内フローラを「和」の状態に保ち、森羅万象を尊び、美しく懸命に「おもてなし」する「武家の食卓」。一説には日本人の長寿や、新型コロナウィルスが重症化しにくい謎の要因「ファクターX」も和食にあるという。和食=「武家の食卓」は日本が世界に誇る唯一無二の文化と知恵だろう。