「息子がいなかったら受賞なかった」”妄想”を大人の力で実現したゲーム制作秘話

松田 和城 松田 和城

 終わりが見えないコロナ禍の今、自宅にいて家族の間で楽しめる「ボードゲーム」が熱い。一体ボードゲームはどのようにして生まれ、制作陣のどんな思いが込められているのか、妄想ゲームズ☆代表のH1R0氏の実体験に基づいて取材した。数あるボードゲームの中、昨年4月、株式会社アークライトより、リメイク版が出版され発売1年で出版本数が1万本を超えた「ダブルナイン」。そしてボードゲームセレクション2020にて塞翁賞を受賞した「セブンヴァイス」の制作に関して、当時の苦悩を振り返る。

 2017年に発売された原作のインディ―ズ版「ダブルナイン」の制作当時は、はじめてのゲーム制作であったこともあり「テストプレイ150回以上行いその中で15回ほどルールを改正した。途中煮詰まってあきらめかけた」という。

誰もが子供の頃、「ゲームを作りたい」と思った

 H1R0さんがボードゲーム製作を開始したきっかけは、当時小学6年生だった息子の「ゲームを作りたい」という純粋な子供の好奇心であった。「誰しもが子供の頃、『こういうゲームを作りたい』と思った。でもそれを実現させるのは子供だけでは難しい。だったら子供が考えたゲームを具現化するプロジェクトを大人が力を合わせてやってみようと考えた」と当時の決意を語り、「もともと自分はクリエイターではなかったので、こういった発想はなかった」と続け息子への感謝を述べた。

 ボードゲームを作る上で重要と考える事は「面白い」のは大前提とし、「繰り返し遊びたいと思えること」だと話す。

テストプレイのゴールは?

 素朴な疑問としてテストプレイのゴールは存在するのだろうか?

 H1R0氏は「自分が飽き性なのもあるのですが、繰り返し遊べるゲーム、これ何回も遊びたいなと思えることを重要視しています。ダブルナインはテストプレイ150回を含め、500回ほどこのゲームをプレイしましたが、今も新鮮な気持ちで遊べています」と答えた。それに加え“必勝法がないこと“が大事だと述べ「これをやれば絶対勝てるとなってしまうと繰り返し遊べない。作業になってしまう」と説明した。確かに「UNO」や「将棋」などの代表的なボードゲームは必勝法がない。いろんな勝ち方を模索するのがボードゲームの魅力だということだろう。

 そして、ボードゲームセレクション2020にて、選考にあたった店舗賞の一つである塞翁賞を受賞したのが「セブンヴァイス」だ。

 5時間以上遊べるといった声も多く、中毒性の高さやプロイラストレーターのJAIBON氏のアートワークも評価され、海外展開も進行中だと言う。H1R0さんは「息子がいなかったらこの受賞もなかった」と話す。

ネタ切れ× 可能性は無限大

 ボードゲーム製作において難しい点は、やはりどうしても似たようなゲームが存在する“ネタ切れ”状態はないのか。H1R0氏は「ルールや説明書だけを見ると『なんかあのゲームに似てるな』と思うことがあるかもしれない。やってみたら違うゲームだなとなることもあるので開発者側としてはまずやってほしい」と思いを明かした。「作者はどこがオリジナルかを説明できるかが大事」と訴える。ゲームのシステムや体験だけでなくアートワークや世界観で差別化できる点は多くあり、その世界観にあったイラストレーターを探すことにも尽力しているという。世の中にボードゲームが蔓延し窮屈な製作を迫られていると想像していたが話を聞くと逆に“可能性は無限大”であると感じた。

ボードゲームはコミュニケーションツール

 H1R0氏はボードゲームの魅力は「人と共有できる」点だという。「体験を自分だけでなく、ゲームの相手と遊びながらコミュニケーションをとれる。国、文化、言葉の壁を越えて違うコミュニティの人たちと仲良くなるきっかけになるのがボードゲームの良さ」と熱い想いを語った。最後に「ボードゲームは素晴らしい文化だと思うので、まだ知らない人たちは一度興味があれば手を触れてみて欲しい。そしてボードゲームのおもしろさに気づいてもらえれば」とメッセージを送った。

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