〝スマホ依存症〟が増えている昨今、映画館でも上映中にスマートフォンを開いて画面を発光させる〝迷惑行為〟が問題になっている。隣客がスマホを開いた時に注意すると、理不尽ではあるが〝逆ギレ〟されてトラブルに発展する可能性も懸念され、その対応は悩ましいところだ。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏があらゆるパターンに沿って対策を提言した。
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【今回のピンチ】
話題の映画を観にシネコンへ。隣に座っている青年が、映画が始まっているのに、スマホで何やら打ち続けている。画面の光が気になって映画に集中できない……。
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こんな迷惑なことはありません。ただ、NGなのは分かっていても、時にスマホに支配されてしまうのが現代人の悲しさ。「急いで返信しないと」という強迫観念にかられると、冷静な判断ができなくなるのでしょうか。たいていは緊急の用件でも何でもないのに。
このままだと気になって映画に集中できないし、注意してムッとされたら、それはそれで気持ちがザワついて映画を楽しめません。席を移ろうにも、満席だったら不可能です。空席があったところで自分が移動するのは釈然としないし、いつ「ここ、俺の席なんだけど」と言われるか分かりません。
とんだ災難であり、逃げ場のない大ピンチです。さて、どうしたものか。
こういう話になると、したり顔で「係員を呼べばいい」と言う人もいます。しかし、席を立って係員を呼びに行ったら、その間は映画を観られません。呼んできたはいいけど、相手がすでにスマホをしまっていたら、今度はこっちが「騒ぎを起こして周囲の人の鑑賞を邪魔した迷惑な人」になってしまいます。
「目には目を」で、こっちもスマホを取り出して、隣に向けて光を当てながら、ゆらゆら揺らすという作戦を思いつきましたが、一瞬で却下しました。周囲の人にしてみたら、同類の非常識野郎でしかありません。
まずは、抗議したい時の伝統的な方法である「咳払い」で、「いいかげんにしろ」という気持ちを表現してみましょう。相手があわててスマホをしまえば、それでよし。まだ続けるようなら、舌打ちの出番です。それでもダメなら、口に出して「いいかげんにしてもらえませんか」と注意するしかありません。
口に出して注意した場合、相手が露骨にムッとしたり、逆ギレしてにらみつけられたりする可能性は、けっこうあります。不愉快な展開ですが、ここで考えたいのは、黙って我慢し続けるのと、どっちがより不愉快かということ。「我慢したほうがマシ」と思うなら、無理に行動を起こす必要はありません。「このまま我慢したら余計にムカムカする」と判断したら、不愉快な反応をされるリスクは覚悟しつつ、勇敢に立ち向かいましょう。
いずれにせよ、もはや心穏やかに映画を楽しむのは難しそうです。心の平穏と映画の魅力を堪能することを優先するなら、さっさと席を立って、また日を改めるという手もなくはありません。もちろん、極めて理不尽な話であり、そっちのほうがはるかに腹が立つ人のほうが多いでしょう。
劇場の人に「隣でスマホを使っている人がいたので、また出直します」と言ったら、返金なり何なりの対応をしてくれる可能性も、ほんの少しだけあります。ただ、何もしてくれなくても、劇場側は責められません。
ここは、自分にとって「なるべく不愉快が少なそうな方法」を選びましょう。人生はままならないことの連続ですが、強く生きるというのは、たぶんそういうことです。