きょう、映画館に行かない?短編監督で思い起こした映画の魔法、神戸との関わり

切通 理作 切通 理作
「きょう、映画館に行かない?」フライヤー
「きょう、映画館に行かない?」フライヤー

 地方のミニシアターはコロナ禍のピーク時には経営の危機にさらされ、その爪痕はいまだ深刻だが、そんな中、神戸元町商店街の中にあるミニシアター「元町映画館」の十周年記念オムニバス映画『きょう、映画館に行かない?』が公開される。上映期間は11月27日から12月10日の二週間。

■元町映画館10周年記念オムニバス

 この作品は9本の短編によるオムニバスだ。

 これまで元町映画館で作品を上映したことのある監督が手掛けている(映画ではなく、10周年の応援コメントで参加の監督も2人いる)。

 私は短編作品『これから』を監督することで本企画に参加した。

 私自身は神戸の出身ではない。やはり過去に自分の監督した映画を上映してくれた映画館だという関係だ。

 今回の件は、元町映画館10周年を記念し、実作の短編か、応援コメントをくれればと連絡があったのが始まり。

 そう言われたらやはり、できれば「実作で!」と血がうずく。私の普段の仕事はライターだが、元町映画館との関わりは監督としてなのだから。

 では、どんな形で短編映画を作るのかと考えた。

 ここでいきなりプライベートな話になるが、自分が結婚するきっかけは、後の妻と映画館に行ったことだった。薄闇の中に入って、スクリーンを見上げる「儀式」を経て、また明るい世界に戻ってくる。2人の関係は、前とは少し変わっている……そう、映画は魔法をかけてくれるかもしれない。元町映画館十周年に向けて、そんな想いを凝縮した短編を作った。

 元町映画館のピンク映画特集(R15版を上映)で作品が上映されたことのある脚本家の深澤浩子さん、俳優の涼花さん、可児正光さんに出演をお願いした。

 今回、かつて元町映画館でかけて頂いた自作『青春夜話 Amazing Place』の方も、期間内にあらためて、「元町映画館と映画作家たちの10年ちょっと。」という並行企画上映として、同じ元町映画館で上映くださることになった。一度公開された映画は、後にソフトになったとしても、やはり映画館のスクリーンに戻って来れるというのはとても嬉しいので、同日は不詳私も上映後の舞台挨拶に伺うことにした。

 もちろん私ばかりではなく、参加監督のかつての上映作品が期間中、あらためて上映される。

■実験性にあふれる「攻めた」作品群

 元町映画館10周年に寄せた映画を作る時、オムニバス全体の表題となる「きょう、映画館に行かない?」という言葉に似たインスピレーションが私の中にも浮かんだ。たとえばおじいちゃんと孫でも、老夫婦でも、幼馴染でも、何気ない会話をしてた2人が「きょう、映画観にいかない?」ってフッと言うような。

 そこで私が同時に思い浮かべたのは、『男はつらいよ』第48作『寅次郎紅の花』(渥美清存命時最終作)の最後の方でお正月、博(前田吟)がさくら(倍賞千恵子)に「映画でも観に行かないか。浅草で何かやってるだろ」って言うくだり。映画マニアじゃない普通の人が日常でフトそう思うのっていいなと思ったのを覚えている。

 『寅次郎紅の花』の中でその時、主人公の寅さんはどこへ行っていたかといえば、阪神・淡路大震災の時に助け合った神戸市長田区の人々と再会していたのだ(この映画はそこがラストシーン)。私の勝手な連想が、実は元町映画館のある神戸とつながっていたことにあらためて気づいた。

 『きょう、映画館に行かない?』の短編オムニバスはまず衣笠竜屯監督による『神戸~都市がささやく夢』から始まる。事実に基づいたこの作品を観て、「主人公は神戸の街だ」と私は思った。戦争、そして震災を経て、いままたコロナ禍にあってなお、この地の人々は映画と出会い直してきたのだと雄弁に語っている。

 2話目、加藤綾佳監督の『オードリーによろしく』は元町の中華街を舞台に、映写技師の青年が、まさに『ローマの休日』よろしく、スクーンの中から出てきたミューズと冒険。元町映画館の支配人さんも出演されている。

 車窓から見える風景。それはスクリーンに投影される映像の原点なのかもしれない。3話目、今回のプロジェクトの発起人でもある小田香監督の「Night Train」は、重ね合わされる映像の中で、人が何かに焦点を当てるまでの時間を描いた実験的な作品だ。

 4話目の作品が、不詳私の『これから』だ。神戸の歴史、元町中華街の冒険、網膜に映し出された世界への自覚・・・ときて、失われた時間と出会い直そうとするわが監督作品が始まるのは、まさにちょうどいいタイミングに感じた。

 続く5話目の作品は、手塚悟監督の『Moment』。セリフなしで描かれる母子の交歓。この作品が元町映画館10周年への祝福ならば、祝福とは、消えかかった思い出の断片を、涙とともに拾い上げることなのかもしれないと思った。

 6話目の作品は、草野なつか監督の『Home Coming Daughters』。「語り」そのものに緊張感を持って向き合うこの作品もそうだが、今回の短編集は、音、語り、映像と、映画を成り立たせている要素の一つ一つに目を凝らす試みがなされた作品が多く、参加者の私にとっても刺激になった。

 7話目の作品『あなたが私に話しかける言葉を聞きたい』も、映画の録音部として働かれてきたという松野泉監督が、人が自分の口から外に向けて発する最初の瞬間の「何か」を掴もうとしている映画に感じられる。

 8話目の作品、野原位監督の『すずめの涙』は、元町映画館常連であるお客さん同士の物語。ネイティヴな、人々の紡ぐ関係性と、なけなしのお金を映画に使う哀歓が愛すべきエピソードだ。

 9話目の作品、鈴木宏侑監督の『光の窓』は、総合タイトル『きょう、映画館に行かない?』につながるフィナーレにふさわしい作品。粘土アニメを用いた映像技術の饗宴も見ものだ。

■ミニシアター発の映画として

 本作は元町映画館で上映されて以降、12月18日より24日まで大阪シネ・ヌーヴォ、22年1月に京都みなみ会館でも上映される予定。

 本企画も新型コロナウイルス感染拡大の影響は免れず、最初の予定よりは延期を重ねたけれど、同館が11周年を迎える2021年8月の「お披露上映」を経て、本公開を迎えることとなった。

 東京での公開はまだ決まっていないが、地方のミニシアター発のムーブメントに、東京在住の監督として参加できたのは嬉しく思う。

 全国に先駆け、一足早く観ておきたいという人は、ぜひ神戸元町商店街のアーケードの中にあるミニシアターに足を運んでいただければ幸いである。

   

 ※特集上映「元町映画館と映画作家たちの10年ちょっと。」(11月27日~12月3日、日替わりで上映)の参加作品は次の通り。詳細は元町映画館HPまで。

「シナモンの最初の魔法」(監督:衣笠竜屯)、「おんなのこきらい」(監督:加藤綾佳)、「セノーテ」(監督:小田香)、「青春夜話 Amazing Place」(監督:切通理作)、「Every Day」(監督:手塚悟)、「螺旋銀河」(監督:草野なつか)、「さよならも出来ない」(監督:松野泉)、「Elephant Love」(監督:野原位)、「黒奏」「KIRO」(監督:鈴木宏侑)、「ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~」(監督:今井いおり)、「燃える仏像人間」(監督:宇治茶)

 

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