幻の猪木VSアミン大統領 仕掛け人が目撃した「冷蔵庫の中身」 猪木が勝っていれば恐ろしい結末も|よろず〜ニュース

幻の猪木VSアミン大統領 仕掛け人が目撃した「冷蔵庫の中身」 猪木が勝っていれば恐ろしい結末も

北村 泰介 北村 泰介
アミン大統領との異種格闘技戦を発表した康芳夫(左)とアントニオ猪木=1979年1月25日、東京・新宿の京王プラザホテル(写真提供・康芳夫)
アミン大統領との異種格闘技戦を発表した康芳夫(左)とアントニオ猪木=1979年1月25日、東京・新宿の京王プラザホテル(写真提供・康芳夫)

 ボクシング世界ヘビー級王者ムハマド・アリとプロレス界の「燃える闘魂」アントニオ猪木が1976年6月に日本武道館で激突した異種格闘技戦から45年。この試合をプロモートした康芳夫は、79年に再び猪木の仰天マッチを企てた。対戦相手はアフリカの独裁者として全世界に悪名をとどろかせていたウガンダのイディ・アミン大統領。結果として試合は「幻」に終わったが、その舞台裏では何が起こっていたのか。今年で84歳になった伝説の興行師は、よろず~ニュースの取材に対し、ウガンダでの交渉時に現地で目撃した衝撃的な出来事を証言し、試合が強行されていれば恐ろしい結末になっていた可能性を指摘した。(文中敬称略)

 アリ戦から2年7か月後の79年1月25日、東京・新宿の京王プラザホテル。康と猪木らが会見し、アミン大統領と猪木が対戦する「夢の世界格闘技選手権試合」が発表された。駆け付けた報道陣は約50人、30社以上。新間寿・営業本部長ら新日本プロレス関係者、日本での放映を予定していたテレビ朝日の担当者も姿を見せた。

 試合は現地6月10日(日本時間11日)、ウガンダの首都カンパラの屋外競技場(約3万5000人収容)で開催され、アリが特別レフェリーを務めるという仰天プランも披露された。康は「ボクシングの東アフリカ・ヘビー級王者だったアミンはムスリム(イスラム教徒)だった。ブラック・ムスリム(米国のアフリカ系イスラム教徒)のアリは偉大なボクサーであると共に、尊敬すべき同胞であり、その前で試合をすることを快諾した」と当時を語る。

 康は会見で「双方が合意に達しており、2月16日、カンパラに猪木、アリが大統領を訪ね、正式文書に調印することになっている」とスケジュールを明かし、「総売上は約1500万ドル(当時約30億円)」とぶち上げた。「米NBCの400万ドルを中心に、日本を含む世界への宇宙中継によるテレビ放映権利金がその95%を占める計算で、世界で20億人以上が試合をテレビ観戦する」という。

 会見の模様はメディアで大きく報じられた。デイリースポーツ紙は翌26日付のリング面トップで報道。「全権プロデューサー」の康はアミンの近況について「毎日20キロもランニングしてやる気満々ですよ」と報告し、猪木は「これからは、こんな物好きな大統領は現われないでしょう。私も物好きだから…。でも戦う以上は手加減しない」と苦笑いの中に闘志を見せた…と報じている。

 何より、このカードが注目されたのは、猪木の相手が「まっとう」なアスリートではなく、「非常識」な存在であったこと。対戦相手が一国の現職大統領であり、しかも、71年の軍事クーデターで政権を掌握して以来、数十万人を虐殺し、「ブラック・ヒトラー」などと国際社会から非難されている独裁者だった。果たして、その素顔とは…。現地で本人と交渉を重ねた康は著書「虚人魁人 国際暗黒プロデューサーの自伝」(2005年刊、学研)で、アミンについて「凶暴という領域を超えた不気味な魔力を感じた」と記した。

 「ウガンダへの2度目の訪問時、大統領執務室近くの倉庫に置いてある大きい冷蔵庫をアミンが開けた。中には雪だるまのように真っ白な人間の頭の形をしたものがぎっしり詰めこんであった。これは何だ?と質問しても、アミンは不気味に薄ら笑い、『これは我々の習慣だ』とだけ答えた。その眼光の鋭さに一瞬、背筋が凍りそうになった」。当時を振り返る康に改めて記者が聞くと、「あれは生首。びっくりしましたよ」と、今も鮮明に残る記憶をたぐり寄せた。

 結局、試合は中止になった。同年4月、内戦によってアミンがサウジアラビアに亡命したのだ。東京での会見時、外国人記者から「猪木がアミンに勝ってしまったら、あとが大変じゃないのか」との質問に、康は「これは国際法上の私的な契約行為に基づくファイトなので、ご心配なく」と猪木の「無事」を約束してみせた。だが、42年後の今、康は「猪木君が本当に勝ったら、大変なことになっていた。(アミンに有利な)契約を破ったとして、リングを取り囲んだ軍隊に撃たれていた可能性があった。そう考えると、中止になってよかったと思う」と振り返る。実際、アリは「最悪の事態」に備えて、防弾チョッキを着けてレフェリングに当たると報じられていた。

 まさに、構想だけで想像力が膨らんだ「虚実皮膜」のマッチメーク。康は「猪木君は今でもアミン戦を『絶対やりたかった』と言っています」と代弁する。とんでもない規格外の話にプロの大人たちが真剣に取り組む、そんな時代が確かにあった。

【康芳夫オフィシャルHP】

 https://yapou.club/

【YouTubeチャンネル「康芳夫×虚霧回路」】

https://www.youtube.com/channel/UCazxg9YeaTxvkWZaGUO98Hg

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