奈良県にある「カフェオリオン」はオタクに優しいカフェとして、オタク客と共に〝来店〟するぬいぐるみ向けのミニサイズのスコーンや、推しのイメージを元にオーダーメードで作られる「推し色クリームソーダ」などの人気メニューを提供している。オタクに愛される店づくりのポリシーを店長のフジコ氏に聞いた。
数年前から、「ぬい」と呼ばれる、主に2次元キャラクターのぬいぐるみを持ち歩き、外出先で写真撮影を楽しむ「ぬい撮り」が流行している。「小さなお連れさま」へのおやつの提供は、利用客から「ぬいぐるみと一緒に撮影をしてもいいですか」と声をかけられたことがきっかけだったという。「小さい子に何もないのは寂しいなと思って、たまたまお店にあったクッキーとかを小皿に入れて出したのが最初です」。別の客からは「同じものをうちの子(ぬい)と一緒に食べたい」との要望があり、ミニスコーンとミニドリンクのメニューも始まった。
利用客の約9割が2次元や2・5次元作品の女性ファン。約7~8割の人がぬいぐるみやドール、アクリルスタンド、ブロマイド等を持ち込み、席に飾ったり写真を撮ったりしているという。一般的な飲食店で「ぬい撮り」をする際には周囲から物珍しく見られることを気にする人も多い。「初めて来られる方はサッと出してサッと戻そうとされるので、小さいテーブルや椅子をこちらから出して、一緒に楽しんでくださいと声をかけています」。店内にあるミニチュアの机や椅子は利用客から贈られたものだという。
同人製作経験のあるフジコ氏は作業デーを設けるなど、店内での製作活動も歓迎している。「普通のカフェでは人目を気にしてペンタブとかを出せないけど、『ここでは皆さんそうなので気にしないでください』という感じにしている」と話す。コロナ禍以前は客同士の交流の場にもなっていた。「ちょっとした部室みたいな感じです。私はただの管理者です、みたいな。お客さん同士が作ってくださるのでありがたいことです」と感謝を口にした。
人気メニュー「推し色クリームソーダ」、「推しハーブティー」は推しのイメージやイメージカラーをもとに製作される。注文時には「版権(著作権等)の発生する固有名詞、例えば作品名やキャラクター名は絶対に聞かないようにしています」と、配慮を明かした。「一番は公式さん、アニメを作られている皆さんに不利益が出ないようにしたいんです。キャラクター名を伺ったら本来、公式さんの利益になるものをこちらが頂くことになるわけじゃないですか。オタクとして絶対にそれは…。形はクリームソーダですけど、二次創作の商用利用にならないように気をつけています」。キャラクター画像の提示も禁止している。
もう一つの理由は「お客様が持っているイメージの方が大事」という思いだ。「『〇〇(キャラクター名)をお願いします』と言われたら、私は〇〇さんはスタイリッシュな大人だなと思うんですが、お客様の中ではもしかしたら、かわいいおじいちゃんというイメージかもしれない」。解釈のずれが起きないよう、客のイメージを形にすることを意識しているという。フジコ氏は「推し色クリームソーダや推しハーブティーの文化が問題になることで衰退したらいけないと思うんです。なので、守るところはきっちり守ってこの文化を盛り上げていきたいなと思っています」と語った。