ロシアのウクライナ侵攻は膠着状態に陥っているが、その背景としてプーチン大統領の〝黒幕〟的な存在も一部で報じられている。ジャーナリストの深月ユリア氏が識者に見解を聞いた。
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ロシアのウラジミール・プーチン大統領(70)は「警戒心が強い」「他人を寄せ付けない」と言われているが、そんなプーチン氏でもユーリ・コバルチュク氏(71)という富豪には心を許しているという噂があると、複数の西側諸国のメディアによって伝えられている。
コバルチュク氏はロシア銀行のオーナーの1人で、ロシアのテレビ番組「チャンネル1」など23社のメディアグループのオーナーでもある。複数の西側諸国のメディアによると、同氏の有するグループ企業の会長職にはプーチン氏の愛人だとされている元体操選手のアリーナ・カバエワ氏が就いていることから、同氏が「プーチンの金と愛人の管理をしているのではないか」というのだ。
さらに、コバルチュク氏の両親は歴史学者であり、同氏は極端な反欧米主義・大ロシア主義(ロシア帝国を復活させるべきだという思想)であるが、「コバルチュク氏がプーチンにウクライナ侵攻を助言したのではないか」という説が、複数の西側諸国のメディアで報じられている。
果たして、コバルチュク氏はウクライナ戦争の黒幕なのか。ウクライナの国際政治学者で「ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟」などの著者、アンドリー・グレンコ氏にインタビューした。
「そんな噂はあるようですね。パーティーでコバルチュクがふざけてプーチンの皿にあった食べ物をつまみ食いしたとか。しかし、信憑性は低いと思います。プーチンは他人の意見を聞き入れない独裁者です。自分の考え方に従う側近しか置かない。違う意見の部下は排除します。ですから、むしろプーチンの考え方に追随するコバルチュク氏のような側近しか残らなかった、ということかと思います」(グレンコ氏)
では、コバルチュク氏はウクライナ侵攻に関与していないのか。
「コバルチュク氏が『プーチンの思想に影響を与え、ウクライナ侵攻を誘導した』という説は誇張です。プーチンは1990年代から大ロシア主義者でしたが、当時のロシアは国力・財力共に弱いので西側諸国と争えなかったのです。そして、西側諸国との貿易で儲けて、ロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプラインを築き、莫大な資金を得て、『これ以上、西側に寄り添うふりを演じる必要はない』と考えた暁(あかつき)にウクライナに侵攻したのです」(グレンコ氏)
コバルチュク氏がプーチンの「金と愛人を管理している」のは事実か。
「独裁者の側近にそのような役割を担う人がいる、ということはプーチンに限らず頻繁にあることですね。プーチンには複数の愛人がいるといわれていますが、表だって報道されているのがガバエワ氏と、プーチンの元家政婦で現在はロシア銀行の共同経営者であるスヴェトラーナ・クリヴォノギフ氏です」(グレンコ氏)
「プーチンによるプーチンのための戦争」とも指摘されるロシアのウクライナ侵攻は年内に終結するのか。
「残念ながら、戦争は今年中に終わらず、来年まで続くでしょう。ウクライナ軍はロシア軍の弱い軍勢を探し、そこに徹底的な大規模攻勢を仕掛けていくでしょうが、11月以降はまた路面が凍結して戦えなくなるでしょう。むしろ来年に戦争が激化する可能性があります。また一部のメディアでは『ロシア内部でワグネルら軍部がクーデターを起こす計画』があると報じられていますが、難しいでしょう。〝チンピラ連中〟がプーチンには立ち向かえません。戦争を終結するにはウクライナを勝たせるしかなく、そのためには引き続き武器支援が必要です」(グレンコ氏)
広島サミットでウクライナのゼレンスキー大統領が来日したが、戦争を一刻も早く終わらせるために、日本に期待されている役割は大きいのかもしれない。