マルチな才人・中山千夏は今 伊東で舞台企画、74歳の「じゃりン子チエ」スキューバ引退も現役ゲーマー

北村 泰介 北村 泰介
自伝的な著書「芸能人の帽子」(講談社)を手にする中山千夏。公演後、〝伊豆半島人〟としての近況を語った=静岡県伊東市
自伝的な著書「芸能人の帽子」(講談社)を手にする中山千夏。公演後、〝伊豆半島人〟としての近況を語った=静岡県伊東市

 名子役から女優、歌手、テレビ司会者、声優、作家、参議院議員などマルチな才能を発揮した中山千夏(74)は今、静岡県伊東市を拠点に、地元の人たちに「生の舞台」を届ける活動を仲間たちと続けている。伊豆の海で1000回以上も潜ったというスキューバダイビングは古希を迎えて卒業したが、現在も執筆活動の傍ら、家庭菜園やオンラインゲームを楽しむ。そんな中山に近況や舞台への思いを聞いた。(文中敬称略)

 原点は舞台だった。子役デビューは大阪だが、1959年、東京・有楽町の芸術座で上演された舞台『がめつい奴』での「テコ」という当たり役で注目されて上京。東宝で映画化、日本テレビ系でドラマ化もされ、11歳にして天才子役と称された。釜ケ崎でたくましく生きるテコという少女像は、やはり大阪の下町が描かれる後のテレビアニメ「じゃりン子チエ」(毎日放送製作で81~83年、91~92年放送)の主役につながる。

 「チエちゃん、私もファンですよ。あの女の子、いいじゃないですか。元気で。(原作者の漫画家)はるき悦巳さんもテコを見られていて、『俺のイメージの中に(テコが)あったんかも知れんなぁ』と、おっしゃってました」。声優として、チエは60年代に大ヒットしたNHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」の博士と並ぶ代表作となった。

 60年代後半から70年代に掛けてはマルチタレントの先駆けとして時代のちょう児となる。

 音楽では69年に自ら作詞したデビュー曲「あなたの心に」がヒットし、ポップス系のシングル曲を連発。その一方、日本語の「音」を追求した歌詞、日本の古典芸能とプログレッシブロックを融合させたようなサウンドの先鋭的なアルバム「六つのこころみ」(71年)など隠れた名盤が近年、CDで再発されている。

 テレビ司会者としては68年から76年まで出演した日本テレビ系「お昼のワイドショー」で青島幸男、横山ノックという後に東京都と大阪府の知事になる人たちとも共演。社会活動への意識も高いオピニオンリーダー的な存在となり、80年の参院選全国区では162万票を獲得して当選し、1期6年を務めた。

 女優としては70年代初めに伝説となった前衛的なドラマ「お荷物小荷物」(朝日放送製作)を代表作に挙げる。著書は70冊以上。小説は数カ国語に翻訳された「子役の時間」など3作品が直木賞候補となり、絵本作家としては数ある作品の中でも、障がいをテーマにした「どんなかんじかなあ」が日本絵本賞を受賞した。

 多忙な日々にも転機が訪れた。07年、半世紀近く暮らした東京を離れて伊東に移住。「(東京は)ガチャガチャしてるのがなんとなくイヤになっちゃってね。物を書く仕事が主になっていたから、体が(東京に)なくてもいいですし」と回顧する。

 「43歳くらいから始めた」というスキューバダイビングを地元で堪能。「伊豆の海はダイビングのメッカ。益田一(はじめ)さんという人が伊豆で始められた。伊豆の海で、いい人たちとも巡り会った。でも、70歳でやめたの。水の中はいいんですけど、陸で重たい道具を背負って行くのが大変で。若い人たちが手伝ってくださるんだけど、それも申し訳ないから。それに1000回潜ったから、まぁいいかなと思って、卒業しました」

 私生活ではオンラインゲームと家庭菜園を楽しむ。「今やっているゲームは『PSO2ニュージェネシス』。自分のキャラクターを作って、敵をバンってやっつけるとスッとするの。面白いよ。庭ではね、栽培したキンカンでシロップ漬けを作ったり、梅の木もあるから梅酒を作って飲んでます」

 そして外では、生の舞台に触れる機会の少ない地元の人たちに観劇という娯楽を提供している。「新生市民劇場 ちょっと劇場へ!」と題し、自身がプロデュースした3回目公演を今年1月28日に開催。盟友の女性芸人・オオタスセリ、静岡出身であるピンク・レディーの未唯とトークで共演した。

 「肩ひじ張って立派なものを見に行くというのではなくて、ちょこっとしたものを、ちょっと見てくるという感じで、気軽に劇場に行けることが地元に根付くといいなと思って。私の肩書きはプロデューサーというより、『ちょこっと手伝い』かな(笑)。アイデアを出したりしながら、2、3年に1回くらいできたらいいですね。本当はもっとやりたいですけど、(それぞれ仕事を持つ有志)スタッフの皆さんは忙しいですから」

 子役時代、舞台や楽屋で榎本健一、森繁久弥、ミヤコ蝶々、三益愛子、森光子といった名優たちの薫陶を受けた。体の芯まで舞台人。「今回、4年ぶりにマイクを通してしゃべったの。コロナ禍で出無精になってしまったけど、これからも協力していきたいと思います」

 かつては芸能人、今は「伊豆半島人」を名乗る。自然にあふれた環境で、自身の原点である舞台の魅力を自然体で届けていく。

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