1980年代頃から庶民の生活に定着した日本のコンビニ文化だが、その形態や役割を根本的に見直した「未来のコンピニ」として展開する店舗が都内に誕生したという。流通アナリストの渡辺広明氏と1月に同行取材した現場で、同店にある数多くの要素の中から、モニター画面を通して接客する「アバター」という存在に注目した。
未来のコンビニには「アバター」がいる。有名な映画のタイトルではない。来店客の対応をするスタッフの分身となるアニメ的なキャラクターのことだ。一般的なイメージだと、プログラミングされた範囲で想定されたマニュアル対応しかできないイメージがあるが、その〝中の人〟が臨機応変にマンツーマンの対応をしてくれるのだ。
そのコンビニは昨年11月下旬、東京・大塚にオープンしたローソンの新型店「グリーンローソン」。渡辺氏に「『グリーン』というより、『フューチャー』と呼ぶべき実験店です」と紹介されて入店すると、各所にあるモニター画面から男女のアバターたちが声を掛けてくる。
スイーツコーナーでは女性アバターが「いらっしゃいませ。なにかお困りのことがございましたら、いつでもお声がけくださいませ」と声を弾ませる。渡辺氏が「いま、オススメのスイーツは何ですか?」と質問すると、女性は「わたくしが一番好きなのが『濃厚カヌレ』です。おすすめでございます」と即答した。
そこで、記者が「実際のあなたはどちらに?」と問うと、女性アバターは「はい、わたくしは現在、大阪から『中継』させていただいています。お客様の顔を見させていただいて、お話しさせていただいております」と返答した。大阪にいるスタッフが東京のコンビニで接客するという未来図が現実のものとなっている。この女性は「人間の温かさで対応させていただけたらなと思っています」と付け加えた。
商品販売だけではない。入口近くには「フードロスをなくす」ために来店客が持参した缶詰やレトルト食品などを入れる箱がある。そこに置かれたモニターに映る男性アバターは「賞味期限が2か月以上ある食べ物を入れていただき、こちらの方で回収させていただいて、しかるべき施設の方に提供して、ご飯が食べられない方など必要な方々にお配りしています」と説明した。こちらの人も大阪にいて、画面では「Live from Osaka」と公表されていた。
渡辺氏は「今回のアバターは大阪からでしたけど、会社でなくても自宅からもできるので、障害者の方やひきこもりの方も仕事ができる。海外にいても日本のコンビニの接客が可能です。日本は経済力が落ちて、外国人労働者に来てもらえなくなっていくと思いますが、例えば、日本語のできるタイ人がバンコクから日本のコンビニのアバターとして働ける。あと、薬剤師アバターがお客さんの熱を測って薬を売るような可能性も出て来る。薬剤師を全店舗に配置することはできなくても、1人で数店舗を見られるので、少人数で全国をカバーできる。そこに未来のコンビニの形がある」と解説した。
スイーツ担当の女性アバターにお勧めされた「濃厚カヌレ」(税込160円)などを手にしてレジに行くと、担当の女性アバターに「ポイントカードはお持ちですか」と確認された。日頃、コンビニでは店員にバーコードを読み取ってもらっているが、「この機械ではやり方が分からない」と伝えると、丁寧に操作の手順を教えてくれた。
このレジには重要なポイントがあった。渡辺氏は酒やたばこ購入時の年齢認証をするための「運転免許証読取機」を指さした。「酒とたばこの売り上げはコンビニの33%くらいある。年齢認証ができなければセルフレジの意味をなさなかったが、それが使えるようになった」とポイントに挙げた。
渡辺氏は「唯一、課題があるとすれば、品出し作業や接客をお願いされた時に対応する店員が1名いるだけなので、万引とかの問題です。防犯カメラとアバターの接客で防ぐしかないでしょうね。また、これから日本は人が減ってどんどん人手不足になるので、将来的には入り口を施錠して顔面認証して入るような無人店になるでしょう。酒とたばこの年齢認証が機械でできるようになったので可能になった」と示唆した。
「アニメみたいな2次元の人」だと思ってなめてはいけない。「店員が基本、接客をしない」というコンビニ業界の未来に向け、アバターは多くの可能性を秘めている。