介護服と聞くとどのような印象を持つだろうか。体の不自由な人でも快適に生活できるよう配慮された衣類の存在は重要。しかし、現状それらはお洒落を楽しみたい人にとっては少し物足りないものであることが多いようだ。
そんな中、SNS上ではあるブーツが大きな注目を集めている。
「以前に車椅子ユーザの方が、
『足に麻痺があるとブーツってすごく履きにくいんですよね。スリッポンみたいに簡単に脱ぎ履きできたら良いのに…』って言ってた。
簡単に脱ぎ履きか、、うん💡✨
だったらブーツを、スリッポンの様にしちゃえばイイ♪
ジッパーを2~3本おろすだけでも、かなり楽に履ける✨」
と件のブーツを紹介したのは日本障がい者ファッション協会代表理事のKEY HIRABAYASHI(平林景)さん(@KeiHirabayashi)
黒のレザー製、タイトなシルエットで足首まで包んでくれるこのブーツ。麻痺した足でも着脱しやすいように6ヶ所にジッパーが設けられており、それらをすべておろした時の見た目から「banana」と名付けられているそうだ。
以前、福祉の仕事に携わっていた筆者。障害のある人もファッションを楽しむことができるようにというこの試みには大きな感動を覚えた。平林さんにお話を聞いた。
野中比喩(以下「野中」):banana誕生の経緯をお聞かせください。
平林:弊協会では、当事者さんにファッションに関するヒアリングを行なっています。その中で「ブーツを履きたいけれど、履きやすいものがなかなかない。履きやすく脱げにくいものが欲しい」というお声がよく出ていました。どうしたら希望に添えるかなと協会内で話し合っていましたが、インソールや整形靴を手がける7th Seed代表の新井さんに相談し、アイデアが生まれました。
製作を担当頂いたCENTRAL FOOTWEAR SERVICEの吉田さんによると、脱ぎ履きのしやすさを最優先するために、整形靴技術を用いて足の骨格や関節のバランスを考慮しながらファスナーの向きや角度を設計したそうです。その上で脱いだ状態がバナナに見えるようファスナーの本数、丈感や素材を選んだそうです。
野中:世間のユニバーサルデザインへの関心についてどのように感じますか?
平林:より良く変わって来ていると感じる部分もありますが、まだまだと感じる部分もあります。パリに行くと、日本のインフラはユニバーサル環境がかなり進んでいることを実感しました。パリの地下鉄は階段のみで改札も狭いし、車椅子ユーザーの利用は難しいです。
またファッションにはまだ可能性があるなと感じています。サイズやジェンダーに考慮されたものはありますが、もっとできることがあるなと。
野中:協会が携わっておられる、パリで行われた車椅子ファッションショー「WFR(Wheelchair Fashion Row)」の動画を拝見しましたが夢があり素敵でした。
平林:日本国内でオーディションし、最後にランウェイした中村悠紀さん1人が選ばれました。
他の9人はプロモデルやアスリートで、こちらからお声がけをしてモデル出演をして頂きました。
野中:ショーでも使われた、スマホの入るショートブーツが素敵ですね。
平林:当事者さんから「ズボンのポケットだと落ちやすいので鍵や小銭、スマホもブーツの中に入れたりすることがある」と聞いて、ポケットやポーチ付きのブーツを作りたいと考えていました。7th Seedの新井代表に相談し、神戸医療福祉専門学校三田校の整形履科の学生さんにデザイン、型紙、アッパーを担当いただきました。
担当下さった伊藤碧羽さんは「車椅子に乗ったまま使用する靴だったので、ポケットに入れた物の落下防止と、座った姿勢で使うことを考慮して靴の内側にポケットをつけました。一番難しかったのはポケットの縫製です。物が納まるスペースが必要だったことに加え、今回ポケットに使用した革は、表面に反射材のような加工がされており、固く形の変わりにくい革だったので、加工、縫製に気をつけました」とおっしゃっています。
野中:こだわりと思いやりの詰まったブーツですね!
平林:私は今、2025年大阪万博で「NextUDコレクション」を開催することを目指しています。弊協会が提唱している次世代のユニバーサルデザイン「NextUD」をいろんなブランドやデザイナーに表現して頂き、ファッションショーが開催できたらと思っています。
WFRが与えた世間への影響は0が0.1になったくらいじゃないかと思っています。もっと変わって行けるし「NextUD」を日本から新たな価値として発信し、もっと変わっていく世の中を見たいと思っています。
◇◇◇
平林さんの提唱するユニバーサルファッションで、少しでも多くの人がおしゃれを楽しめるようになることを願いたい。
KEY HIRABAYASHI
一般社団法人日本障がい者ファッション協会 代表理事
元美容師。学校法人三幸学園に14年勤務し専門学校の教員、東京こどもみらい園・副学園長、東京未来大学フリースクール・副スクール長を兼務。2017年に児童福祉事業を起業。2019年(社)日本障がい者ファッション協会を設立し、次世代のユニバーサルデザイン「NextUD」の啓蒙活動を行う。障害の有無、ジェンダー、年齢などに関わらず、誰でも着られるファッションブランド「bottom’all」を立ち上げ、2022年9月パリファッションウィーク中にパリ日本文化会館にて車椅子モデルによるファッションショーを主催。
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