1922年(大正11)創部、2025年で103年の歴史を刻む関西大学応援団で、団長、副団長3人全員が女子学生となった。リーダー部、吹奏楽部、バトン・チアリーダー部の3部からなり、団員約150人を誇る同応援団の団長を女性が務めるのは4人目。副団長までのポストを、全員女子学生が占めるのは異例だ。学ランを着て、指揮や振り付けとともに応援の先頭に立つリーダー部に新4年生がおらず、吹奏楽部とバトン・チアリーダー部の女子が手を挙げた。
「フレー!フレー!かーんだい!」関西大のチア「HELIOS(ヘリオス)」のユニホームから、応援団に代々伝わるりりしい羽織袴に身を包むことになった団長の松山小夏さん(21、文学部新4年生)は「声の出し方だったりとか、元々チアで『頑張れ~』とか高い声で言ったりしてたんですけど。団長だったら、格好良くどう見せるかみたいな…。声の出し方とかはやっぱり女性だからこそ、人一倍大きく見せたりとかしないと、男性の団長に見劣りすることがないように試行錯誤している」と声を張り上げた。
松山さんによると、関西圏の主要私立大の応援団では「同志社大学と近畿大学が今年は(団長が)女性。関学は男性なんですけど吹奏楽部で、全部(新4年生に)リーダー部の子がいない。立命は現在、リーダー部という組織がいない。今年はみんな似たような境遇。(新4年生の)リーダー部がいるのは京大、神戸大くらい」と解説した。
関西大応援団のリーダー部員は3人全員が新3回生だという。リーダー部長の男子学生、桜田凌成さん(20、化学生命工学部新3回生)は「ここ数年、リーダー部は減少傾向にあると感じている。大学によっては団長を吹奏楽部やチアの団員が務める大学はけっこうある」と事情を語る。
松山さんは「今までは、団長はリーダー部から選出されることが多かった。去年(24年度)も4年生のリーダー部員がいなかった。誰が立候補するのかっていうのを話し合っていて。でも、やっぱり結構責任感のある重役職なので、なかなか踏み切ることができない状況が続いていて。団長は応援団をまとめる上で不可欠な存在。団長がいないと、応援団が成り立たなくなってしまうから。それは何としても避けたく、不安を感じながらも覚悟を決めてやりたいと思うようになった」と経緯を説明した。
副団長の一人、米田晴香さん(21、化学生命工学部新4年生)も、チアから羽織袴に腕を通した。米田さんによると〝花形〟であるはずの応援団チアの人数も減少傾向。「やっぱり部活動なのである程度の縛りがあり、大学生活は楽しみたいという理由でサークルを選ぶ学生も多い。応援団として一生懸命活動してきているので、私たちの応援を見てもらい、応援団という存在をより多くの人に知ってもらいたい」と話した。
吹奏楽部でサックスを担当していたもう一人の副団長、楠田梨乃さん(21、文学部新4年生)は「入部当時は吹奏楽部が応援団だって知らなかった。吹奏楽部に入ろうと思っていたら、応援団だった」と振り返る。「最初は応援団って怖いんだ、リーダー部めっちゃ怖い…みたいに正直、思っていた。それでも応援団の活動を通して、一緒に活動したり、話し合いしたりすることで、楽しさというか、素晴らしい組織ということに気づき、そこを自分が副団長になって、吹奏楽部のみんなに派生していきたい。応援団に対するポジティブな思いを伝えて、壁を取っ払いたいという願いがあった」と振り返った。
桜田さんは「応援団自体が、上下関係とか礼節を重んじる団体。言葉づかいや行動がかなり厳しく見られる。応援依頼も、年間何百依頼がある。少ない人数で、時間的な拘束も長い。大学生っていうのは何でも自由にできる時期。そんな環境下で、部活に拘束されて、自由な時間が制限され、厳しい環境になってしまう。そこが今の大学生には合っていないのかな…」と、リーダー部の学生が少ない理由を推察した。
新入生歓迎シーズンを前に、PR動画をインスタグラムで流すなど部員の獲得を目指す。桜田さんは「応援団の魅力っていうのがまだまだ知られていない。自分も大学に入るまでは、応援団の存在すら知らなかった。もっと活動情報を発信し、誰もが感じるかっこよさとか心が動かされるような瞬間・力を知ってもらえる機会を増やす。あと、今まで行ってきたことだけにとらわれずに、時代に合わせて必要な部分は変えていく必要がある。例えば、ずっと上下関係って感じじゃなくて、オンオフの時は、切り替えてメリハリをつけるなど…」と〝時代に合わせた変化〟の重要性を説いた。
応援団と言えば学ラン、飲み会…のイメージが強いが、103代団長、副団長の移動は基本スーツ姿。スカート、パンツ両方あるという。米田さんは「羽織袴を着る時は、チアみたいな派手な化粧をしていない。ほんまにすっぴんくらい」。松山さんも「団員の悩みを聞く時は、スタバとかで」と、女子学生ならではのカラーが出てきている。
関西大学応援団は、大阪・関西万博での演舞も予定されている。2025年の団方針には「繋」の漢字を掲げた。繋がりに感謝し、新たなものを築いて次世代へ受け継ぐことを目指す。
松山さんは「しっかりと危機感を持って。応援団があることが、当たり前じゃないので、まずはリーダー部員を頑張って獲得すること。あと大切にしたいのは、今までの103年の歴史と伝統。先輩方が築いてきた活動のおかげで、いろんな人や組織と繋がってきて、その繋がりが今の私たちの活動に繋がっている。これまで繋がれてきた精神や思いを軽視することなく、自分たちなりに向き合い、今後も応援団が必要とされる団体であり続けられる方法を考え、それに向けて取り組んでいく。万博もあるので、新たな繋がりもきっと増えてくる。新たなことにも物怖じせず、団員と共に積極的に臨んでいって、応援団を好きになってくれる人を1人でも多くしたい」。多様性を理念に掲げる万博で、女子団長が世界へ応援団をアピールする。