ロシアが〝祖国防衛戦〟敗北すれば「最大の恥」核兵器使用の可能性も ウクライナ出身・グレンコ氏が危惧

北村 泰介 北村 泰介
母国に侵攻したロシアついて語るウクライナ出身の国際政治学者、アンドリー・グレンコ氏=都内
母国に侵攻したロシアついて語るウクライナ出身の国際政治学者、アンドリー・グレンコ氏=都内

 ロシアのウクライナ侵攻から半年が過ぎ、9月に入っても激しい攻防が続いている。その打開策や今後の展望はどうなるのか。ウクライナ出身の国際政治学者であるアンドリー・グレンコ氏(34)がこのほど、ジャーナリストの深月ユリア氏が司会を務め、都内で開催されたシンポジウムに石破茂元防衛大臣、原田義昭元環境大臣といった自民党の閣僚経験者らと共に参加し、母国の現状と今後について解説した。

  「そもそも、なぜ、この〝戦争〟は起きたのか。ロシアのプーチン大統領は何を目指しているのか」。グレンコ氏はそう切り出し、根本的な問題を次のように説明した。

 「『ウクライナはロシアの国土』。これはプーチンの強い信念です。ソ連崩壊によって独立した国々は不当に奪われた領土であり、ウクライナをはじめ、旧ソ連諸国を併合することは『正義の回復』であって、『侵略』ではないと。だから、ロシアに『あなたたちがやっていることは侵略で国際法違反だ』と言っても、全く通じない。なぜなら自分たちが正義で、絶対に正しいことをしていると思い込んでいるからです。損得勘定抜きなので、人的、経済的損失を受けても構わない。それは、信念の戦いだから。ウクライナは独立国家として自分の国土を守るための祖国防衛戦をしているが、ロシアにとっても〝自分の国〟を取り戻すための祖国防衛戦。〝正義と正義のぶつかり合い〟に話し合いの余地はない」

 その上で、グレンコ氏は「この戦争は長引くと考えた方がいい。ロシアが負けを認めるということは自分の信念をあきらめること。どこかの段階で停戦、休戦、もしくは膠着状態になったとしても、それはあくまで次の戦いに向けた準備期間になるだけで、決して戦争の終結ではない。終わらせる唯一の方法は軍事力でロシア軍を撃退すること。そのために、国際社会はウクライナに対して、さらなる本格的な武器支援、戦車や戦闘機などの提供していく必要がある」と訴えた。

 今後の展望はどうなるのだろうか。同氏は「来春までは膠着状態の中で小規模の衝突が続き、それ以降も戦いは再燃するでしょう。ロシアはこの先、国家総動員令をかけるかどうかが焦点。ウクライナが今年占領された領土の奪還を来年できるかどうかは、西側からの兵器援助がどこまで入ってくるかによる」と補足した。

 そして、国際社会はロシアの核兵器使用を懸念している。

 グレンコ氏は「その可能性は高いと思います。領土を取り戻せず、祖国防衛戦に負けたということはロシアにとって『最大の恥』。この認識は完全な妄想で、ムチャクチャな話なのですが、プーチンは本当にそう考えます。祖国の領土回復にはいかなる手段を使ってもいい、戦局を逆転するために核兵器を何十発も打つ…となると、それは2国だけの問題ではなく、全世界の問題になる。最悪のシナリオを、米英、日本など自由民主主義諸国は想定しなければならない」と危惧した。

 では、日本の政治家はどう考えるか。

 原田氏は「ウクライナの中で(戦闘を)やっている限り、ロシアが負けることはない。長引けば長引くほど、いたいけな子どもたちが死んでしまう。なぜ、米国を中心とする多国籍軍がロシアのプーチンを攻めないのか、私は不思議でならない。これは明らかにロシアによる国際的な犯罪で、違法な戦闘」と指摘した。

 さらに、原田氏は「1962年のキューバ危機当時、高校生だった私はオクラホマに留学していた。ソ連のフルシチョフが核兵器を米国に撃ち込めば、私のいた場所に届くギリギリの距離だったことから緊張した記憶がある。あの時は、ケネディ米大統領の海上封鎖によってソ連は撤退したが、今回、プーチンが核兵器を使おうとしても『やるならやってみろ』という気迫が自由主義社会にあれば、それはできないという個人的な思いはある」と、核攻撃への恐怖を体感した若き日の経験を踏まえて私見を述べた。

 石破氏は「戦争には『領土、宗教、民族、政治体制、経済間格差』という5つの要因がある。ウクライナ正教会がロシア正教会から独立するぞと言ったことも根底にある。宗教と民族です。振り返って、冷戦時代に世界大戦が起きなかったのは、ソ連と米国、東西の軍事バランスが取れていたからだが、今回、バイデン(米大統領)は『参戦しない』とあまりにも早く言った。そこでバランスが崩れたのではないか」と見解を語った。

 背景には世界の主導権争いがある。

 グレンコ氏は「自由民主主義国家と独裁主義国家による『新冷戦』において、現在のウクライナはその一局面です。今後、東アジアや中近東など他地域でも衝突が起きる可能性がある。平和を保つためには、日本も含めて防衛力強化に務め、独裁国家による帝国主義、侵略主義、覇権主義を抑止することが唯一の方法」と、母国が存亡の危機に瀕する当時者として切実な思いを吐露した。

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