世界には犬猫殺処分ゼロの国が存在します。その国のひとつ、トルコでは2021年に動物権利法案が議会に提出され、野良動物も「商品」から「生き物」として定義されることで、彼らを傷付けた者には懲役刑が課せられるとのこと。まさに路上で暮らす動物たちとの共存を目指す国、トルコなのです。そんなトルコ最大の都市イスタンブールで暮らす野良犬たちの目線で撮影されたドキュメンタリー映画『ストレイ 犬が見た世界』が3月18日から日本で公開されています。
カメラに映し出されるのは、多くの人が行き交うイスタンブールの路上。そこで人間たちをじっと見つめる大型犬のゼイティンと名付けられた犬は、人間を怖がる気配もなく、見知らぬ人たちに頭を撫でられても平然としています。近くにも似たような野良犬たちの姿があり、どの犬も人間を恐れることなく路上を堂々と歩いているのです。映画は犬の目線に合わせてローアングルで撮影され、廃墟を寝床にする移民の子供たちが犬たちと毛布にくるまる姿や、カップルが口論をする光景や女性たちがデモ行進をする姿まで映し出されます。
まさに人間たちのいざこざを客観的に捉えた世界。これを映画として完成させた愛犬家のエリザベス・ロー監督が撮影した犬たちは穏やかで自然体なのですが、実際にイスタンブールの犬たちは皆、社交的で撮影に協力的だったようです。
ちなみに日本の都心部では野良犬を見かけることは滅多にありません。それは自治体の保健所や動物愛護センターが狂犬病予防法に基づき保護収容をしているからなのですが、その点についてトルコの野良犬たちはどのように管理されているのでしょうか?
実はトルコでは野良犬に関しても積極的に狂犬病ワクチンを接種する対策を行なっているそうで、接種が済んだ犬たちの耳にはタグが付けられます。とはいえ、完全に狂犬病を撲滅することは不可能でしょうし、繁殖を止めることも容易いことではありません。それでもトルコの人々は動物たちとの共存を願い、国を挙げて工夫して生きているのです。何より不思議なのは、私たちが時折見かける野良犬、野良猫特有の厳しい表情とは違い、イスタンブールの野良犬たちは人間に対して敵意を持つことなく安心し切った表情を見せていたことでした。それこそ、人間を安全な生き物として認識している証であり、危害を与えられていないからなのではないでしょうか。
動物はもちろん、生き物が安心して暮らせる世界に「暴力」は必要ない、映画はそう語っているようでした。