4月1日のエイプリルフールで「しゃれにならないウソ」を相手に言われた時、その対応に苦慮することになる。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏がその対策を提言した。
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【今回のピンチ】
4月1日の朝、部長が「この会社、倒産するらしいぞ!」と言ってきた。一瞬で「ああ、エイプリルフールか」と気づいたが、少しは驚いてあげないと気の毒かも……。
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近ごろはすっかり影が薄い「エイプリルフール」ですが、今でもたまに、張り切って嘘をついてくる人はいます。そして、そういう人の嘘が面白かった試しはありません。
悪い人ではないけど日頃から少しズレてる部長が、4月1日の朝、顔を合わせた途端に「おい、聞いたか!? この会社、倒産するらしいぞ」と言ってきました。笑いをかみ殺している表情で、驚くより先に「ああ、エイプリルフールか」と気づいてしまいました。
「今どきエイプリルフールって……」と思いましたが、「はいはい」と冷たくスルーしたら、ちょっと気の毒です。部長が「侮られがちなタイプ」だったとしても、そういう相手にだけ強気な態度を取って悦に入るのは、極めてはしたないと言えるでしょう。
義理と人情とやさしさと切なさが複雑に入り混じった大ピンチ。さて、どう切り抜ければ自分も相手も救われるのか。
「えーーー、マジですか!? どうしよう、まだ家のローンも残ってるのにーーー!」と驚いたフリをするのは、手堅いようでいて実はリスキー。すでに嘘だと確信しているので、わざとらしく響いてしまう可能性が大です。部長はバカにされた気になって、激しく気分を害するでしょう。
とりあえず「えっ、今なんておっしゃいましたか?」と聞き返して、時間を稼ぐ手はあります。あらためて「だから、会社が倒産……」と言っているうちに、部長はこらえきれずに吹き出してしまうに違いありません。そうすれば、自然な流れで「なあんだ、エイプリルフールか。ビックリしたあ~」と、部長がそれなりに満足できる反応ができます。
オススメは、一瞬の間のあとに「やめてくださいよ。もうちょっとで、だまされるとこだったじゃないですか」と、笑いながら責めるというリアクション。嘘と気付くまでの時間を実際より長めに引き延ばしてはいますが、それこそ嘘はついていません。
たぶん部長は「ヒヤッとさせた後にホッとさせて大笑い」という展開をイメージしていたはず。部長が「なーんだ、もうバレちゃったか」と白状したら、「焦りましたよ~」と笑ってあげましょう。それが、ケナゲで不器用なコミュニケーションを取ろうとしてきた部長への何よりのねぎらいだし、年度初めから徳を積んだ気になれる近道です。
ただし、エイプリールフールの嘘ではなく、最悪のタイミングで会社が本当に倒産して、部長が微妙な表情で伝えてくれている可能性もゼロではありません。
その場合は部長や周囲と「でも今日はエイプリルフールだから、きっと嘘ですよね。ハハハ」と言い合えば少しは気持ちが楽に……。いや、そんなショッキングな状況で、切り返し方とか考えてる場合じゃないですね。