2024年7月3日に新しいデザインの日本銀行券が発行された。一万円札の肖像に選ばれたのは「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一である。しかしこの新一万円札を巡って、思わぬ議論が巻き起こっている。それは、祝儀袋に入れるには不適切ではないかというのだ。この「渋沢栄一問題」は、いつまで続くのだろうか。お札の寿命という観点から、この問題の行方を探ってみよう。
新一万円札を祝儀袋に入れるのが不適切といわれる理由は、渋沢栄一の経歴にある。渋沢栄一は生涯で正妻が2人いたが、それ以外にも何人もの女性と関係を持っていたといわれている。この女性関係の派手さが結婚式にそぐわないというのだ。株式会社トキハナが実施したアンケート結果では、約30%の人が渋沢栄一の紙幣を使用することがマナー違反だと答えている。
とはいえ紙幣にも寿命がある。マナー違反だからといって新紙幣を使わないというわけにはいかなくなるだろう。
ここで、お札の寿命について考えてみよう。日本銀行の発表によると、一万円札の平均寿命は4〜5年程度である。一方、五千円札と千円札は使用頻度が高く傷みやすいため、1〜2年程度とされている。元銀行員のAさんに話を聞くと、古くなったお札の割合が銀行内で管理されていて、定期的に日本銀行に運んでいたそうだ。
新一万円札が発行されてから約5年後には、現在流通している旧一万円札のほとんどが回収され、新札に置き換わっていることになる。そうなれば、祝儀袋に入れるお札として、新一万円札を使わざるを得なくなるだろう。
しかし当面の間は、祝儀袋に入れるお札について悩む人も多いだろう。今後お祝い事が予定されている人は、旧一万円札をいくらか「タンス預金」しておくといい。
いずれにせよ渋沢栄一の肖像が描かれた新一万円札を祝儀袋に入れることが当たり前になる時はやってくる。そのころには渋沢栄一への抵抗感も薄れているだろう。むしろ「日本経済の発展を象徴する人物」として、祝儀に相応しいと考える人も増えるかもしれない。
もしくはQRコード決済で祝儀を払うような時代になるのだろうか。新紙幣の登場により私たちは貨幣と社会の関わりについて改めて考えさせられるのである。