豆腐業界関係者「パッケージから全成分を読み取るのは難しい」添加物表示の現在

ぽすわんのカノー ぽすわんのカノー

健康を気遣う人にとって、成分表示は気になるところ。特に添加物の有無を確認する人は多いと思うが、豆腐に用いられる添加物の一部には表示義務がない事を知っているだろうか。

そのひとつが乳化にがり。にがりを食用油脂や乳化剤でコーティングしたもので、豆乳を固めるために用いる添加物だ。なぜ乳化にがりの使用には表示義務がないのか。

一般財団法人全国豆腐連合会の事務局(以下、全豆連)と40年以上豆腐を作り続ける兵庫県尼崎市の「白い虹 安心堂」金谷博貴さん(以下、金谷)に話をきいた。

ーー乳化にがりが表示されない理由は何ですか?

全豆連:旧来のにがりを使ってムラなく豆腐を固めるには高い技術が必要です。2000年ごろに登場した乳化にがりは中のにがりがゆっくり溶け出し、製造のロスを削減できるため、大量生産に向いています。現行の食品衛生法に基づき、乳化剤や油脂を表示する必要はないため、多くの豆腐メーカーは乳化にがりを使用していても、凝固剤とだけ書いても良いことになっています。さらに2022年に消費者庁が定めた新たなガイドラインによって、豆腐の乳化剤などの添加物は不使用と書くことも禁止されています。あえて、表示している製品も多くありますが、パッケージから全ての添加物の内容を読み取るのはほぼ不可能となっています。

ーそもそも、豆腐の凝固剤の種類はにがりだけではないんですね。

金谷:第二次世界大戦下で、にがりは飛行機を作るのに必要で軍に統制されていた為、石こうからできる澄まし粉(硫酸カルシウム)を代用する方法が主流となりました。澄まし粉の豆腐を作るお店の人に声をかけられ脱サラしてお店を始めましたが、うちの店では、昔ながらのにがりの豆腐を独学で勉強し、今まで作り続けています。

ーそれぞれの凝固剤の特徴は?

金谷:澄まし粉は無味無臭で、にがりには塩由来の甘みや大豆の旨味を引き出す力があります。また、澄まし粉は保水力が高く柔らかくなりますが、にがりは主に豆乳のみを固めるので大豆のもつ濃い味わいを楽しめます。

全豆連:ちなみに、澄まし粉の豆腐はあっさりしており、京都の高級料亭などでは今も主流ですね。

ー昔は豆腐屋が多かったと聞きます。減った理由は?

金谷:私が豆腐屋を始めた時は「豆腐屋は儲かるぞ」と言われていました。旨味の強い旧来のにがりの豆腐に自信もあった。ただ、消費者は澄まし粉の柔らかい豆腐を好むようになり、気付いた時には豆腐屋がずいぶん減ってしまいました。乳化にがりが出てきた時も、消費者に知られることなく広まってしまっていました。私たちも旧来のにがり豆腐の良さを伝える努力を怠っていたと思います。

最近広まった乳化にがりの豆腐もいいですが、ひとつの伝統として、旧来のにがりの豆腐もしっかり味わって欲しいです。

全豆連:豆腐は日本の伝統文化や豊かな気候風土に育まれて独自の変化を遂げてきました。これまでの歴史や、これからの発展を支えるためにも、業界全体で消費者と向き合いたいです。

  ◇ ◇

特に健康に害のない物質であっても、化学的に表記された物質名を見るだけで「なにか身体に悪いのではないか」と思い込んでしまう私たちの態度が、正確な成分表示を遠ざけている側面もあるかもしれない。世界に誇る日本の国民食、豆腐。安全の見える化を進めるためにも、消費者側も公正な態度で関心を向けていきたい。

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