近年、ネット上で「ネタバレ」という言葉が目に付くようになった。映画、ドラマ、小説など作品のストーリーを事前に拡散しないように配慮することだが、過度になると、作品を語る余地がなくなる懸念もある。例えば、一般常識と思われる歴史的事実を挙げただけで「ネタバレだ!」と非難される〝笑えない笑い話〟が生じることも。そんな時、あなたならどうする?というわけで、「大人研究」のパイオニアにして第一人者、『大人養成講座』『大人力検定』など多くの著書を世に送り出してきたコラムニストの石原壮一郎氏が「大人の切り返し講座~ピンチを救う逆転フレーズ~」と題し、その対策を伝授する。
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【今回のピンチ】
若手社員と大河ドラマの話をしていて「義経は結局、頼朝に嫌われて気の毒な死に方をするんだよね」と言ったら、「ネタバレとか、マジ勘弁!」と怒られた……
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織田信長が出てくるドラマを見ていて「この人、明智光秀に本能寺で殺されるんだよね」と言ったら、あるいは太平洋戦争中のドラマで「結局、日本は負けちゃうんだよね」と言ったら、それはネタバレになるのか……。
最近、何でもかんでも「ネタバレだ!」と非難してドヤ顔したがる傾向が強まっています。このままだと、「ウサギとカメ」の物語で「最後にカメが勝つ」と言っても、ネタバレ呼ばわりされるかもしれません。
源義経は源平合戦で大活躍しますが、いろいろあって源頼朝を激怒させてしまいます。平泉に逃げたものの、やがて追い詰められて妻子とともに自害しました。
たしかに、信長の最期や太平洋戦争の結末ほど超有名ではありませんが、変えようがない“歴史的事実”ではあります。しかし、その若手社員にとっては、「知らなくて当然」の「意外な展開」だったのでしょう。
「バカ、なにがネタバレだよ。そんなのは常識じゃないか。知らないお前が悪い!」
そう一喝したいところです。しかし、正面から怒り返すと、話がややこしくなりがち。歴史を振り返れば、この手のバカほどバカにされたことを根に持ち、いつかこっちの寝首を掻いてやろうと決意を固めます。
かといって「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど」と謝ったら、相手は己の無知を自覚することなく、こちらを「無神経なおっさん」と見下してくるでしょう。不名誉な濡れ衣を着せられて、自分の中に激しいモヤモヤが残ります。
いわれのない非難を受けたショックを払しょくするには、知性的な態度が有効。
「なるほど、ネタバレねえ。そういう見方もあるのか。ただ、けっこう広くバレてるネタだし、歴史は変えられないからなあ」
自分に非がないことを穏やかに示した上で、反撃を開始しましょう。「頼朝も義経が死んで10年後に急死して、北条政子が実権を握るんだよね」などと、ネタバレの追加攻撃を繰り出して相手をひるませます。その上で、
「大丈夫だよ。大河ドラマは、展開をわかった上で見るのが醍醐味だから。しかも脚本が三谷幸喜とくれば、いろいろ意表を突いてくれるんじゃないかな。楽しみだね!」
そんなふうに相手を言いくるめつつ、大河ドラマのファン同士であることを前面に押し出して、強引に距離を縮めましょう。