「スケバン刑事」「ピグマリオ」漫画家・和田慎二の集大成画集 没後10年「もっと評価されるべき」

山本 鋼平 山本 鋼平
「スケバン刑事」より (c)和田慎二
「スケバン刑事」より (c)和田慎二

 「スケバン刑事(デカ)」「超少女明日香」「ピグマリオ」など、少女漫画に大きな足跡を残し61歳で世を去った和田慎二さん(1950~2011年)の画集「和田慎二ARTWORKS 戦う美少女伝説」が1月31日、玄光社から発売された。代表作だけでなく、初期のサスペンス、コメディを含む名場面、貴重な原画などの資料、新谷かおる氏や美内すずえ氏らのインタビューを収録。画集を手がけた編集プロダクション・メモリーバンク代表取締役の綿引勝美さん(75)に完成までの道のりを聞いた。

 麻宮サキ、砂姫明日香、椎崎奈々、クルトたちの美麗イラストが踊る。初期の読み切り作品から遺作「傀儡師リン」までが画集を彩った。貴重な「ピグマリオ」の構想ノート、生前の和田さんによる作品へのコメント、和田さんの仕事部屋やフィギュア等のコレクション、柴田昌弘氏や安彦良和氏に竹本泉氏ら5人の戦友ならぬ〝線友〟による思い出が収められた。

 没後10年の節目に企画され、和田さんが描いた業績の集大成といえる画集。生前に交流があった綿引さんは「かつては、少女の夢やロマンスを描くものが中心だった“少女マンガ”。しかし、1970年代には多様な作品が登場し始めました。そんな時代に彗星のごとく登場し、男性ならではのダイナミックなアクションを、少女マンガに導入した和田慎二先生の業績は、もっと評価されるべきだと考えていました。和田先生は、少女マンガならではの抒情性を継承しており、カラー原稿や描線は繊細でたいへん美しいものです。大判・カラー印刷の画集で、その魅力を存分に引き出したいと思いました」と語った。

 企画の契機は2021年に刊行された「新谷かおる ARTWORKS 戦闘機から美少女まで」(玄光社)を手がけたことだった。新谷氏が和田さんと親交が厚く、同じ漫画家である佐伯かよの夫人からも背中を押された。和田さん遺族からの協力を受け「ただただ感謝しかありません。和田先生がお亡くなりになって10年、ご遺族の努力で今も資料の整理が進められています。創作時に残したラフスケッチ等の資料も発見されてきており、『ピグマリオ』の構想ノートの一部を収録させて頂くことができました。壮大な叙事詩のアイディアが記された貴重な資料ですので、画集の見どころのひとつだと思います」と述べた。

 綿引さんは1969年に秋田書店に入社し、「まんが王」「週刊少年チャンピオン」「プレイコミック」などの編集部を歴任。「少女マンガ誌を創刊したいと考えた私は、鈴木光明先生が開催された『少女漫画大会』に参加。そこで鈴木先生からご紹介いただいたのが、和田先生でした」。手塚治虫が代筆を依頼した逸話を持つ鈴木光明さん(1936~2004年)が主宰する少女漫画教室、その教え子筆頭格が和田さんだった。1980年にメモリーバンクを設立後も関係は続いた。「『アラビアン狂想曲(ラプソディー)』(大都社)などのご本を編集させていただきました。また、『アニメージュ別冊SFコミックス リュウ』(徳間書店)という雑誌で『ヒゲクマのアニメ記』の執筆をお願いするなど、マンガ・アニメを通じて交流させていただきました。アニメ・特撮が大好きだった和田先生。私が『アニメージュ』(徳間書店)、『アニメディア』(学習研究社)の企画や取材をし、アニメ関連書籍を編集していたことから、和田先生とはアニメのお話がつきず、談義がしばしば深夜まで及んだ思い出があります」。和田さんはワンダー・フェスティバル等のホビー系イベントに足を運んでいたことで知られており、残されたアニメ・キャラクターのフィギュア、食玩、UFOキャッチャーのおもちゃ等、残された資料点数は膨大だという。

 綿引さんは昨年8月に69歳で死去した佐伯さんを「画集の完成を楽しみにしてくださっていたので、お見せすることがかなわず残念です」と悼んだ。その一方、今回の刊行を記念して、東京・神保町の書泉グランデと書泉オンラインショップでは今月28日まで「和田慎二フェア in 書泉グランデ」を、喜久屋書店仙台店では画集からのミニパネル展示が当面の間は開催されるなど、和田作品への注目が高まりつつある。今春には秋田書店より「スケバン刑事」新装版が刊行予定だ。和田さんや佐伯さんに感謝の意を示しつつ「これをきっかけに和田慎二作品が、さらに読者の手に渡ることを期待しています」と願っていた。

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