「どんな題材であれ、誰もが共感する部分があれば映画はヒットする」
これは長年映画を観て感じながらも、多くの監督やプロデューサーが意識していることです。その力を信じて製作されたであろう映画『ドリームプラン』は、本年度アカデミー賞候補にも名が上がっており、主演のウィル・スミスは本作で先に発表されたゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ)を受賞しています。そんなウィル・スミスが主演のみならず製作も努めた本作は、実在する史上最強の黒人テニスプレーヤー姉妹、ビーナス&セレーナ・ウィリアムズの夢を叶えた家族の物語であり、本格的な試合シーンと共に破天荒な父親リチャードによる「78ページに及ぶ世界王者にするための計画書=ドリームプラン」に基づいた子育て計画を軸に脚本が構成されています。
そこは間違いなくウィル・スミスが自身を黒人の希望であると認識している上で、妻で女優のジェイダ・ピンケット=スミスと共に、息子のジェイデンや娘のウィローの夢を叶えようとエンターテイメントの世界で生きていることから、脚本に共感して製作にも名を連ねたのだと推測。
結果、ウィル・スミスにゴールデングローブ賞をもたらしたこの物語の主人公リチャードは、当時のテレビインタビューでもその奇人ぶりで話題を呼んでいました。冒頭、彼の性格を垣間見るセリフが登場します。それは「テニスは(裕福な)白人のスポーツだから選んだ」というもの。当時はプロテニスプレーヤーに黒人が少ない時代であり、決して裕福ではない彼らがあえていばらの道を選んだ理由の裏には“黒人の誰もが諦めてしまう道だからチャンスはある”というポジティブな理念がリチャードにあることを表した象徴的な言葉であり、彼の前向きさが映画の随所に見受けられるのです。実は来日時でも常に大らかでポジティブな言動が多いウィル・スミスにもシンクロします。
しかしながら主演男優賞のみならず、作品賞としても賞レースに名が上がる理由には、人種差別だけでなく、リチャードを英雄扱いしない映画作りが評価に繋がっている気がします。それは劇中、ディズニーアニメーション『シンデレラ』から“謙虚さ”を娘たちに学ばせるべく何度も観せようとする狂人ぶりや、家族はチームだと言いながらひとりで子どもの進路を決めてしまうリチャードの行動に妻のオラシーンが叱るなど、家父長制とは違う女性のパワーが脚本に組み込まれている点です。他にも当時、KKK(白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン)や差別主義の白人、警官から暴行を受ける黒人達の怒りを象徴するように、黒人の若者がリチャードを暴行するシーンがあるのですが、暴力で対抗することは負の連鎖を起こすと伝えるようなリチャードの対応も評価の対象になっているように思えます。
差別や環境というハンディキャップを、独学と自信に満ちたポジティブさで乗り越えたウィリアムズ一家のアメリカン・ドリームを描いた『ドリームプラン』。2月8日は米アカデミー賞のノミネーションが発表となりますが、男性と同じように女性の活躍の場を増やすことや差別を無くすことを掲げる米アカデミー賞には共感せずにはいられないテーマが詰まっている本作がどれだけ名を連ねるか、注目が集まります。