牛丼チェーンの「すき家」は23日午前9時から主力商品である牛丼の価格を値上げする。「並盛」は税込350円から400円と50円引き上げとなる。米国産牛肉などの食材費、配送コストの上昇などが要因という。松屋と吉野家も今秋値上げしており、2000年代に一時は200円台まで下げられた大手牛丼チェーンの並盛は1990年代の400円時代に戻ることになる。流通アナリストの渡辺広明氏は、よろず~ニュースの取材に対し、「牛丼はデフレの象徴的商品。今回の値上げは、そのデフレ価格がもたなくなったことの象徴」と解説した。
すき家の価格改定は、「牛丼ミニ」(変更前290円)が330円、「同並盛」(同350円)が400円、「同中盛」と「同大盛」(同480円)が550円、「同特盛」(同630円)が700円、「同メガ」(同780円)が850円(すべて税込)と、40円~70円値上げした。
競合する牛丼チェーンでは、吉野家が10月末に店内で提供する牛丼の並盛を39円引き上げて426円(店内飲食価格)とし、松屋は9月下旬に「牛めし(並盛)」を320円から380円に値上げ。さらに、外食チェーン「いきなり!ステーキ」も主力のステーキメニューを12月1日から値上げしており、輸入牛肉を主力とする外食産業全体に値上げの波が必然的に起きている現象だということが言える。
ツイッターでは「(牛丼並盛り)280円のイメージが抜けないせいで物すごく高く感じる」「物価はじわじわ高くなってるのに給料は一向に上がらない」などと嘆く声がある一方、「あまり安い方が問題。社員やアルバイトの方にも給料を高くして経済を循環させていきましょう」「高くなることはいいこと。むしろ価格競争の負のスパイラル辞めてくれてありがとう」「今までが安過ぎたみたいなとこはある」と肯定する意見もみられた。
牛丼業界のこれまでの流れをおさらいしてみよう。90年代は400円前後だった並盛がゼロ年代に200円台まで下がった価格破壊を覚えておられる人も多いだろう。松屋が2000年に390円から290円に値下げすると、01年にすき家、吉野家が400円から280円に。その後、ゼロ年代前半のBSE(牛海綿状脳症)問題で米国産牛肉の輸入が止まると、各社は牛丼販売をいったん停止し、同年代半ばの販売再開後は300円台に価格を上げてから再び200円台に戻るなど推移。15年以降、並盛は、すき家350円、吉野家380円、松屋は290円(後に320円)となり、今年で400円前後となった。
この流れは、牛丼業界だけの話ではない。
渡辺氏は「牛丼は、ハンバーガーチェーン、100円均一ショップ、ユニクロやファストファッションと並ぶデフレの象徴。海外で安いコストでの原材料を調達したり、または新興国の安い人件費で製造して安く売るビジネスモデルだったが、アフターコロナは海外の急激な経済の回復による労働者不足とインフレでの労働者賃金アップ、原油高傾向やコンテナ不足などによる海外からの物流コストアップがあり、日本国内において、グローバルの影響を受け、安く仕入れて安く売ることは難しくなっている。また、外食や小売も最低時給のアップで人件費も上がり、値段維持に限界」と指摘した。
その背景として、同氏は「80年代後半からバブル崩壊(91年)、その名残があった90年代後半からデフレは加速し、安価な商品を扱うドラッグストア、100均ショップが急成長したが、価格は今、バブル前に戻って適正価格になってきている。今回の牛丼値上げは便乗値上げではなく、平成のデフレが終わったことを意味しており、適正価格になったといえる」と見解を示した。
平成デフレの終えんで、牛丼価格が20世紀末の価格に「戻った」令和の日本。「懐が寒いから食べる」という商品ではなくなっていくのかもしれない。