小学生の3人に1人が「ランドセル症候群」になっているという調査結果が、学校用水着開発の大手「フットマーク」(本社・東京)から発表された。その現状や対策について、同社の担当者や専門家に聞いた。
「ランドセル症候群」とは、自分の身体に合わない重さや大きさのランドセルを背負ったまま、長時間通学することによる心身の不調を表す言葉。小さな体で3キロ以上の重さがある通学カバンを背負って通学することによる筋肉痛や肩こり、腰痛などの身体異常だけではなく、通学自体が憂鬱に感じるなど気持ちの面にまで影響を及ぼす状態をいう。
同社が実施した「ランドセルの重さに関する意識調査」の対象は、通学にランドセルを利用している小学1-3年生とその保護者1200人。対象児童の90・5%が「ランドセルが重いと感じている」と回答し、保護者の85・8%も「子どもにとってランドセルが重すぎるのではないか」と感じているという。ランドセルの重さは平均3・97キロで、3キロ以上ある割合は65・8%。重く感じる児童の3・1人に1人が通学時に肩や腰・背中などの痛みを訴えたことがあると判明した。
「たかの整形外科」(東京)の髙野勇人院長は「米国の研究では、背負う荷物の重さは一般的に体重の10%が望ましいという結果が出ています。小学1-3年生の平均体重は約25キロなので、2・5キロ以下が適切な重さだと言えます」と解説。「ランドセルの中で荷物が揺れ、背中から中の荷物が離れてしまうと、重さがすべて肩にかかってしまうため、肩こりや 痛みの原因になる場合があります。また、荷物を支えて歩くために前傾姿勢になりやすく、肩甲骨や背中にも負荷がかかる」と説明した。
その解決策として「教科書を学校に置いて登下校」が有効だ。いわゆる「置き勉」だが、それができない現実がある。ランドセルの重さと子どもへの影響を研究している大正大学の白土健教授は「根本的な解決には『置き勉』など、持ち運ぶ荷物の軽減が重要だが、置き勉を禁止されている小学生は46・8%と半数近い。このような傾向の中では、置き勉の実現は相当ハードルが高いと言えます」と指摘した。
一般社団法人教科書協会の「教科書発行の現状と課題(2021年度版)」によると、小学1-6年生が使う教科書のページ数は全教科の合計が05年の4857ページから、20年度は8520ページと倍近くに増加。20年度から始まった新学習指導要領ではICT教育が推進され、一部の小学校では児童に電子端末が支給されて教科書以外の副教材の数も増えている。同社の調査では、副教材などを入れたサブバッグをランドセルとは別に持って登校する割合が92%もあった。
白土教授は「私が2018年に実施した調査では平均7・7キロ、最も重かった人は9・7キロと、非常に重い荷物を背負って通学していることが判明しています」という。こうした懸念から、文部科学省は通学時の荷物の重さに配慮する通知を昨年に出し、既に「置き勉」を認める学校も出ているが、実現していない現場もまだ少なくない。
同社では「荷物を減らすことはできないけれど、軽く感じる工夫はできる」という視点から、重量のある教科書類を背中側に密着させて固定することで軽く感じる機能を持った新しいランドセル「RAKUSACK(ラクサック)」を開発した。
白土教授は「通学カバンや背負い方を工夫することで、子どもたちの負担を減らしてほしい」と望む。髙野院長は「荷物が背中側から動かないように固定することで肩への負担軽減や前傾姿勢を防ぐことにつながる。また、肩だけではなく背中全体で荷物を支えるよう、チェストベルトを利用し、身体の後ろ側にかかっていた負担を前面に分散させることで楽に感じる」と力学的な面から解説した。
「置き勉」 がNGなら、こうした体への負担を軽くするバッグを選ぶことが対策となる。その上で、今後、教材そのものを大量に持ち運ばないで済む策が求められている。
白土健教授は、よろず~ニュースの取材に対し「私は『置き勉』に賛成です。NGと考える方は、『(家庭での)予習復習に必要』とされているのだと推察します」と指摘。根本的な改善策として「家庭学習の必要性を今一度考えてみるのも良いと思います。家庭でできる学習を今後構築することが大事だと考えます」と提案した。
コロナ禍は、この「家庭学習」の可能性を模索するきっかけにもなった。「学校の勉強は学校で」「教科書を置いて家に帰ろう」という認識が「ランドセル症候群」によって広がる可能性もある。