「孤狼の血」白石和彌監督が主役モデルの墓参りをした東映の傑作とは?70周年特集上映が開催

北村 泰介 北村 泰介
石川力夫役で迫真の演技を見せた渡哲也さん。「仁義の墓場」(c)東映
石川力夫役で迫真の演技を見せた渡哲也さん。「仁義の墓場」(c)東映

 東映創立70周年を記念し、1950年代から2010年代まで新旧の東映作品19本を集めた特集上映が東京・丸の内TOEIで8月26日まで開催されている。8月20日に最新作「孤狼の血 LEVEL2」が公開される白石和彌監督に、東映映画の魅力や今特集の見どころを聞いた。(文中一部敬称略)

 今特集では、「博奕打ち 総長賭博」(68年、山下耕作監督)、深作欣二監督の「仁義なき戦い」(73年)や「バトル・ロワイアル」(00年)、「鬼龍院花子の生涯」(82年、五社英雄監督)など8作品の「東映名作選」、佐藤純彌監督の「新幹線大爆破」(75年)と「ゴルゴ13」(73年)、「鉄道員(ぽっぽや)」(99年、降旗康男監督)など7作品の「高倉健 生誕90周年特集 Vol.1 映画館で逢いたい健さん」、白石監督の「日本で一番悪い奴ら」(16年)、「孤狼の血」(18年)と深作監督による不朽の名作2本が激突する「『孤狼の血 LEVEL2』公開記念 アウトロー特集」の3テーマで構成される。

 白石監督に「人生で初めて観た東映映画」を尋ねると、「うーん、なんだろう。あ、『東映まんがまつり』かな」と笑わせつつ、「『飢餓海峡』(65年)は早めに観たと思う。巨匠・内田吐夢監督ですね。『宮本武蔵』シリーズもいいです。山本薩夫監督の『にっぽん泥棒物語』(65年)も傑作です」。今特集上映作から「この1本」を問うと、「名作だらけですが、あえて『人生劇場 飛車角』(63年)を挙げておきます。健さん、梅宮辰夫さんがいい。沢島忠監督は『ひばり・チエミの弥次喜多道中』(62年)など、美空ひばり主演で撮っている一連の作品もすごくいいんですよ」と、アルチザン(職人)である沢島監督の手腕に注目した。

 白石監督は「仁義なき戦い」シリーズ5部作が完結した74年の生まれ。翌年公開された「仁義の墓場」と「県警対組織暴力」が自作2本と同じ枠に入った。「畏れ多いですが…」と前置きし、同氏は思いを語った。

 「仁義の墓場」は、昨年亡くなったが渡哲也さんが、仁義に背いて破滅していく実在の戦後派ヤクザ・石川力夫を迫真の演技でスクリーンによみがえらせた傑作。白石監督は「新作のクランクイン前、最後に見返したのが『仁義の墓場』でした。僕は(北海道から)東京に出てきて、石川力夫の墓参りに行きました。西新宿に墓があるんですよ。彼の行動は全く理解できないし、映画の展開も早い。レイプした次のシーンで、その相手(多岐川裕美)が彼女になっていたり。今じゃ絶対無理ですけど、今でも見返す映画です」という。

 「孤狼の血」は広島が舞台であることから「仁義なき戦い」と比較されたが、ヤクザと深い関係を築く暴力団担当刑事が主役という設定は「県警対組織暴力」に通じる。白石監督は「そう、近いですね」と認めた。

 白石監督は「この特集ではマキノ雅弘監督の『昭和残侠伝 死んで貰います』(70年)など、東映映画の基本の『キ』みたいな作品が並んでいます。まだコロナ禍で苦しんでいる中、過去の偉大な作品が映画館を救ってくれる。僕の自作は置いといたとしても、どれも素晴らしい作品なので、ぜひ、いっぱい観て欲しいなと。観ると、そこから派生している作品がいっぱいあるので、広がっていくかと思います」と総括。一方で、「東映ビデオの70周年DVDラインアップがすごいです。『怪猫トルコ風呂』(75年、山口和彦監督)」、『博徒七人』(66年、小沢茂弘監督)とか。ほんと、いかれた傑作ですよ。よくぞ、ソフト化したな」と、マニア垂ぜんのカルト作にも目を向けた。

 今特集のラインアップには入っていないが、「網走番外地」シリーズや異常性愛路線などの石井輝男監督、「トラック野郎」シリーズなどエンターテインメントに徹した鈴木則文監督、骨太の活劇を連発した中島貞夫監督の作品群など、お勧め作品は枚挙にいとまがない。

 膨大な作品群から、例えば70年代に限定して、記者は「温泉みみず芸者」(71年、鈴木則文監督)、「実録 私設銀座警察」(73年、佐藤純彌監督)、「三池監獄 兇悪犯」(73年、小沢茂弘監督)、「直撃地獄拳 大逆転」(74年、石井輝男監督)、「狂った野獣」(76年、中島貞夫監督)、「安藤昇の我が逃亡とSEXの記録」(76年、田中登監督)、「北陸代理戦争」(77年、深作欣二監督)といった作品を思い浮かべた。もちろん、それはほんの一部に過ぎない。観る人の数だけお勧め作品は千差万別。東映映画の懐は深い。

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