作品の垣根を越えた和製アベンジャーズ!? 日本のクロスオーバーのルーツを探る 映画監督が解説

沼田 浩一 沼田 浩一

 

 1年以上待たされることとなった超大作映画『ゴジラvsコング』と『ブラック・ウィドウ』。『ゴジラvsコング』は7月2日、『ブラック・ウィドウ』は7月8日の公開とアナウンスされている。両作とも昨春から何度も延期と聞いてガッカリさせられたのだが、今回こそは本当に公開されそうだ。

 今さら言うまでもないが、どちらも複数の作品が世界観を共有する、いわゆる作品クロスオーバーの一編である。『ゴジラvsコング』は『GODZILLA ゴジラ』(2014年)から続く「モンスターバース」の4作目であり、『ブラック・ウィドウ』は『アイアンマン』(2008年)から続く「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の24作目となる。シリーズの続編ではあるが、必ずしも同一の主人公が登場して直接的なストーリーの続きが展開するというわけではない。

 MCUを例に挙げるとアイアンマン、ハルク、ソー、キャプテン・アメリカといったそれぞれの単独作品が公開された後に『アベンジャーズ』(2012年)で各主人公が集結した。

 よくできた仕組みである。これは否が応でも盛り上がる。先述のモンスターバースやバットマン、スーパーマンらが登場するDCエクステンデッド・ユニバースなど、昨今の作品クロスオーバーの隆盛はMCUの大成功によってもたらされたと言えよう。

 しかし、この仕組みは特に新しい試みではない。日本人にとっては『ウルトラマン』や『仮面ライダー』シリーズでおなじみな設定である。アニメにおいても同様のクロスオーバーは多く存在する。マジンガーZとデビルマンがタッグを組んだ『マジンガーZ対デビルマン』(1973年)。『忍者ハットリくん』と『パーマン』が共演する『忍者ハットリくん+パーマン 超能力ウォーズ』(1984年)。『銀河鉄道999』や『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』など一連の松本零士原作作品も世界観を共有している。主人公が一堂に会するというのは誰でも胸を熱くするものなのである。

 ここで、日本アニメにおけるヒーロー集合のルーツといえる珍品を紹介しよう。それが『オモチャ箱シリーズ第3話 絵本1936年』(1934年)である。

 子どもやオモチャが平和に暮らす島に、ネズミの集団がコウモリに乗って襲撃。島の明け渡しを要求する。困ったオモチャたちは、絵本を開いて昔ばなしのヒーローたちを呼び寄せる。桃太郎、金太郎、一寸法師、浦島太郎に花咲かじいさんまで登場する豪華さだ。まさにこれは物語の垣根を越えた和製アベンジャーズといえよう。

 和製アベンジャーズは協力しあって、ネズミ軍を圧倒する。その悪意に満ちた表情のネズミは、どう見てもミッキーマウスである。著作権無視でミッキーマウスを使用しているのは、その人気にあやかったものであると同時に、アメリカそのものを象徴しているのだろう。あまりに露骨なプロパガンダではあるが、そんな作り手の思惑とは関係なく、これを見た子どもたちは大いに気分を高揚させたと思われる。昔ばなしの主人公たちにミッキーマウスまで加わるというのはまさにオールスター総出演なのだ。

 今も昔も、作品の垣根を越えて主人公が集合するというのは、観る者を興奮させる。そして重要なのは、世界観を共有することは観る者の想像力を刺激してくれることではないだろうか。今見ている作品の裏で、その頃別のキャラクターは…。小さなリンクが、作品世界のイメージを大きく広げてくれる。そんな「つながり」は作品間だけではなく私たちのハートにもしっかりリンクを築いてくれる。

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