旧ソ連で残骸となった「乗り物」を日本のカメラマンが現地撮影 独特のデザインに注目 写真集出版

北村 泰介 北村 泰介
ジョージアの路上で、廃車として放置されていた旧ソ連の国産車「ポピェーダ」。錆び付いても重厚感を漂わせる(撮影・星野藍)
ジョージアの路上で、廃車として放置されていた旧ソ連の国産車「ポピェーダ」。錆び付いても重厚感を漂わせる(撮影・星野藍)

 昨年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻が泥沼化している。ロシアのプーチン大統領が掲げる〝大義名分〟は、ウクライナをかつてあった領土として奪回するという「超大国・ソ連」への復古主義にあると指摘されているが、そのソ連時代の庶民の文化については、日本も含む〝西側諸国〟でどこまで知られているのだろうか。そう考えた時、気になる写真集が6日に出版された。旧共産圏文化に魅了され、現地撮影を続けている写真家・星野藍氏の新刊「ソ連の乗り物」(東京キララ社、税別2000円)だ。今回、「乗り物」にスポットを当てた星野氏に話を聞いた。

  1991年、東西冷戦時代に米国と世界を二分したソビエト連邦が崩壊。次々と独立国家が誕生していく中、同連邦内にあった建築物などは今も廃墟と化して残り、星野氏は現地に足を運んで撮影を続けている。今回の写真集は「旧共産遺産シリーズ」第1弾として、8か国で撮影した車、鉄道、飛行機、船舶、ロープウェイなど、西側諸国とは趣の異なる風景113点を収録した。

 ジョージアではソ連の中型国産車「ポピェーダ」を撮影。この車名は「勝利者」という意味で、第2次大戦でナチス・ドイツとの独ソ戦勝利にちなんで命名されたという。錆びついた廃車だが、重量感と貫禄を漂わせる。

 ソ連車について、星野氏は「西側諸国に比べると角ばっていて、マッチ箱みたいなかわいらしいデザインの車が多いと思います」と指摘。一方で、同氏は「(個人的には)車にこだわりがあるというわけではないので、旧共産圏で車を借りて遠征する時は、その時一番リーズナブルなものを選んでます」と付け加えた。

 そのほか、アブハジアのロープウェイ、南オセチアの雪に埋もれたトラック、ウクライナの戦車、キルギスタンの列車、リトアニアの観覧車、ウズベキスタンの旅客機や船舶、幽霊船のような状態になったロシアの船、そして戦車…。「乗り物」の種類は多岐にわたる。

 そもそも、なぜ撮影対象を乗り物に絞ったのか。

 星野氏は「当初、『ソ連の廃墟』とする予定でしたが、実際に写真をかき集めると膨大な数になり、写真を整理していくうちに編集(担当)さんが『乗り物を集めた写真集にしたら面白いのではないか』とひらめき、そこから生まれた写真集となります。乗り物というと車や電車などを真っ先に思い浮かべ、そこから先へ思考が飛ばない気もしますが、実は『乗り物』とは人を乗せて移動するもの全般を指すもので、広義で捉えると様々な被写体が当てはまる事に気がつきました。ソ連の乗り物というか、ソ連の痕跡全般が大好物なのですが、乗り物で特に魅力的なのは、やはり西側諸国とは違うフォルムの様々なプロダクトが存在しているところかもしれません」と振り返った。

 西側の資本主義圏から遮断された環境の中で生まれた文化。ソ連崩壊後、現地の人たちにはどのように受け止められているのだろうか。

 星野氏は「ソ連崩壊後も、カザフスタンのアルマトイの地下鉄の駅のようにソ連を彷彿させるデザインは生まれてはいるので、ソビエトデザイン好きな者からしたらありがたい事だと思っています」と現状を説明しつつ、「やはり、ソ連時代に造られた様々なものは負の遺産として、国の辛い歴史としての側面もあるのでよく思っていない人、国があるのも事実です」と指摘。さらに、「ラトビアなどは特に顕著で、旧ソ連構成国の中でも、特にソ連時代のモニュメント、建築物、戦争遺構などが解体され消えていっている国です。やはりソ連時代を良く思っていない人からしたら、『政治的な事は賛同しないが、デザインは好きだ』と言っても拒絶反応が強かったり、理解を得られない事もあるので難しいな…と常々思っております」と補足した。

 ロシアのウクライナ侵攻について「政治的な意見は表立ってしない事にしています。ただ、とても悲しく、残念で、心が痛みます」という星野氏。第2弾以降については「第1弾の評判などを取りまとめてから考えていこうと思っていますが、ざっくりとした構想はあります。もちろん、東欧各国も対象にする事は考えております」と明かした。

 ボロボロの状態でも処分されることなく、時の止まった無人の空間に、残骸となった己の存在をさらけ出している「乗り物」の姿。その〝墓場〟のような風景に歴史の重みを感じさせられた。

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