日本独自の年中行事となって久しい2月14日のバレンタインデーが近づいてきた。〝義理チョコ〟だけでなく、〝本命〟の相手とのチョコレートをめぐる悲喜こもごもの思い出がある人も少なくないだろう。ところが、このチョコレート、実は「媚薬(びやく)」として使われてきた歴史があるという。ジャーナリストの深月ユリア氏がスパイスの歴史に詳しい料理研究家に話を聞いた。
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もうすぐバレンタインデーだ。今年も恋心を抱く相手にバレンタインチョコレートを渡す人も多いだろう。ところで、なぜバレンタインに渡すものが、他でもない「チョコレート」なのか。それは、チョコレートが古来、「媚薬」として使用されてきた歴史に由来するという。
スパイス料理研究家で「料理をひきたたせる『スパイス』がわかる本」などの著者、遠井香芳里氏によると、 「チョコレートは昔から嗜好品というよりは精力剤や媚薬として使われていました。マヤ・アステカ文明の王様や戦士たちは、(精力剤として)原料のカカオを混ぜた飲み物を1日50杯飲んでいたと言われています」
また、チョコレートには催淫作用をもたらす特殊な成分が含まれているという。
「チョコレートは、広義で言えばスパイスの一種ですね。カレーの風味付けにチョコレートを入れるとおいしくなるという話を聞いたことはないでしょうか。チョコレートには恋に落ちる感覚の原因となる恋愛化学物質『フェネチルアミン』が含まれています。ただ、科学的には証明されていません。 『フェネチルアミン』はすぐに体内で消化されてしまい、脳には作用しないと言われています」(遠井氏)
米ニューヨーク州立精神病院の医学者チームは1980年代始めに「チョコレートに媚薬効果がある」説を指摘した。「フェネチルアミンがノルアドレナリンとドーパミンのホルモンの分泌を促し、陶酔感を引き起こす」というもの。しかし、最新の研究によると、日頃からチョコレートを大量に食べる人でも血中濃度に変化がなく、 フェネチルアミンは体内に残留しないことが判明したという。
ただし、 複数の精神科医、心理カウンセラーの説によると、心理学の観点からみれば「プラシーボ効果」により「媚薬」になり得る可能性は否定できないという。
英国の研究機関「マインドラボ」の経営者デビット・ルイス・ホジソン博士の2007年の研究によると、「特にブラックチョコレートを食べている時の心拍数はキスをしている時の心拍数の約2倍に増加した」という実験結果もあるそうだ。
遠井氏によると、チョコレートには「媚薬」以外にもさまざまな「いわれ」があるという。
「16世紀のスペインではチョコレートを食べると長寿になるとされ、『門外不出の薬』の貴重品とされた時期もあった。また貴族間では、頻繁に飲まれていた飲み物だからこそ、チョコレートの中に毒薬を混ぜられ、毒殺の道具にされたこともあったようです」
チョコレートがそれだけ魅惑的な食べ物だということだろう。