「心霊現象」について科学的に証明されていなくても、その現象を「体験」する人がいる。ジャーナリストの深月ユリア氏が、「病院で不思議な体験をした」という看護師らに話を聞き、心理学者の見解を聞いた。
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「病院には幽霊が出やすい」という都市伝説があるという。「幽霊」の存在は科学的に証明されていないが、幼少期に重度の気管支喘息を患い頻繁に入院していた筆者は幾度が不思議な体験をした。 個室病棟に入院した時に深夜に窓の外から男性のうめき声(お経のようにも聞こえた)を聞いたり、金縛りにもあった。今から思えば、それは高熱でうなされたからかもしれない。
しかし、入院患者のみならず、看護師たちからも「不思議な体験をした」という話を聞く。
救命救急病棟で看護師として勤務したA氏(50代、東京都在住)によると、「心臓手術した患者さんが急に暴れだして『天井に鬼がいて俺を殺しにかかっている!』と大騒ぎしたことがあります」「人工呼吸器をつけていた男性が、ようやく意識を取り戻しナースコールをしてきた時『あそこに男の子がいる』と言うのです。その病室では、3日前に男の子が亡くなっていました」
また産婦人科で勤務していた看護師B氏(40代、大阪府在住)によると「中絶の手術する時に妊婦さんが『赤ちゃんの鳴き声が聴こえる』って言ってました」。さらに、複数の看護師から「深夜に誰もいない病室からナースコールが鳴ったことある」という話も聞く。
これらの「不思議な体験」は患者や看護師の錯覚と偶然の一致によるもので、ナースコールは機械の故障なのかもしれない。しかし、なぜ、病院という場所ではこれだけ多くの体験談があるのか。
心理学者の冨田隆氏によると、「『幽霊の正体見たり枯れ尾花』ということわざがあります。薄暗い星明かりのような視覚への情報量が少ない状況(あいまいな状況)では、見間違いが生じたり、現実に存在しないものを見る可能性が高くなります。こうした状況では、見る者の『感情』の状態や『想像』『暗示』などが認識に影響を与えてしまいます。つまり、恐怖や不安を抱いていたり、以前に病院での怪談話などを聴かされていたりするとそれが暗示となり、何でもないものを幽霊と認識する確率が高くなるのです」
「また、一人きりで夜勤をしているような状況では、覚醒水準が低下し『催眠状態』に近い意識状態になります。こんな時に以前耳にした怪談話などが暗示として作用すると幽霊を見たり聞いたりするといった体験が引き起こされます。病院という空間は、夜は静かで、外部からも遮断され物理的刺激が少ないことから、上記のような催眠状態が誘発されやすい条件が整っていると言えます」
心理学には「カラーバス効果」という理論がある。人は見たいもの、普段から意識していること、自分ごととして捉えていることなどに自然と目がいく、という心理効果のことだ。病院のような人の生死が関与する場では自ずと「幽霊」について関心が深まるということだろう。