日本全国には多くの老舗が存在する。その中でも奈良県にある五位堂工業株式会社は、754年頃に東大寺「盧舎那仏像」の建立に携わったことがルーツの創業1300年の鋳物会社と言われる。江戸時代の文献に先祖の鋳物師が天平時代の大仏に携わったと記載されており、津田家仁社長(34)は「文献にもありますし、私も先祖代々と伝えられているので、恐らくそうであろうと」と推測する。
2021年3月に就任した津田社長は17代目になるが、それは寺の過去帳にある記録。「数えられるだけで17代目で、お寺より(創業が)古いですから、普通に計算したら40代目くらいなのでは」。1000年を超えて脈々と受け継がれている。
仏像にはじまり、お寺の鐘、日常生活で使う鍋や釜、鎌の農機具と変わり、現在は船舶用エンジンを中心に、工作機械用や建設機械用の部品などを取り扱っている。時代や景気の波にも左右されながらも、企業として生き残ってきた。戦後のピーク時は2000~3000社あったが同業者も、現在は約600社になった。
「家訓とか明確なものはないんですけど、これは絶対に次の世代に渡さないといけないというのは、はっきりしているんですよ。どんなに貧乏でも会社の経営が厳しくなっても、続けるという選択肢しかないんです」。祖父の先々代、父の先代社長の背中を見て育っただけに、責任を重く感じている。
新たな挑戦も行った。21年4月には五位堂鋳物の知名度を広めようと、クラウドファンディングで資金を集めて鉄製の皿、箸置き、鍋敷き、ペン立ての民生品を製作した。「何かしかの形で製品として販売したいと思っていたので」と、今後は一般消費者向けに家庭で使用する民生品の作製も検討している。
次の1000年へ。「父の先代社長から言われてきた『コツコツ、地道に努力する』ことを続けていこうと思っています。鋳物を広めるのもコツコツしていかないと続かないと思います。鋳物が一般の方が手にとってもらって、身近な物になれば」とイメージを描く。
「次の世代にどう渡すか。鉄の業界は、はやりの業界ではないのですが、ただ、未来にわたっても鉄がなくなることはないと思います。お寺の鐘、鎌や船舶のエンジン…。その時その時で必要とされる物を作ってきているでの、今後何かしらの形で社会に役に立つ物をつくることができれば」と先を見据えた。
「面白い話がなくて、すいません」と話す津田社長だが、代々受け継がれた愚直さが、未来の道を切り開いていく。