猪木さんが進化論のダーウィンになぞらえたプロレス&格闘技「生命の樹」理論とは?追悼興行を前に蔵出し

北村 泰介 北村 泰介
進化論のダーウィンにならって、プロレスと格闘技の「生命の樹」理論を語るアントニオ猪木さん(2004年12月撮影)
進化論のダーウィンにならって、プロレスと格闘技の「生命の樹」理論を語るアントニオ猪木さん(2004年12月撮影)

 10月1日に死去した元プロレスラー、元参院議員のアントニオ猪木さん(享年79)の追悼興行「INOKI BOM-BA-YE×巌流島in両国」が28日、東京・両国国技館で開催される。この機会に、猪木さんが展開した独自の格闘技論を18年前の取材から〝蔵出し〟する。

 取材は2004年12月のことだった。大みそかの格闘技興行が地上波キー局のコンテンツとして定着していた時代だ。前年の大みそかは猪木さんが看板となって神戸で開催された「イノキ・ボンバイエ2003」が日本テレビ系で中継され、K-1「Dynamite!!」(TBS系)やPRIDE「男祭り」(フジテレビ系)との「三つ巴の格闘技興行戦争」が繰り広げられた。04年はK-1とPRIDEの2大興行が激突していた。

 「大みそかはテレビで格闘技」が風物詩だった状況から十数年。そんな格闘技バブル時代にあって「本質」を見ていた猪木さんは現在にも通じる視点で熱弁をふるった。取材時に録音した1時間半以上に及ぶカセットテープから示唆に富んだ発言を振り返ってみよう。

 「グレイシー(柔術)とか話題になっているが、ああいう技は俺たちの時代でも知っていたわけですよ。三角絞めや逆十字とか。プロレスと格闘技というジャンル分けをしているけど、力道山と(柔道家の)木村政彦が戦った試合は何だったのかと。力道山は空手チョップで世に出たわけですよね。大相撲出身で空手の技を使った。有名なダーウィンの進化論に『生命の樹』(※全ての生物は『生命の樹』といわれる一つの大きな連鎖でつながっているという説)があるんですが、プロレスにも『生命の樹』があるとすれば、その樹にはいろんなものがつながっている」

 プロレスと格闘技は連鎖していて、二分することはできない。猪木さんは「進化論」で知られる英国の自然科学者、チャールズ・ダーウィンの著書「種の起源」で展開された「生命の樹」という概念を格闘技にも当てはめた。

 「格闘進化論、あるいは『格闘の樹』でも、タイトルはなんでもいいんですが、すべては一つの樹に集約されていく。例えば、前田日明という、猪木遺伝子を継いだ者がいて、そこから、前田が(リングス時代に)ヒョードルを発掘し、ヒョードルはその後、PRIDEに行って活躍する。あるいは(UWFから派生した格闘技団体)パンクラスだとか、別の枝に分かれていく。プロレスも200年近い歴史があり、最初のレスラーは(米国の第16代大統領)リンカーンだったという説もある。リンカーンが戦っている絵が出てきたんですよ。まあ、そこまでさかのぼらなくても、日本では力道山対木村政彦戦などがあって、他は淘汰され、力道山という『闘魂の樹』が成長しようとした時に、本人が亡くなり、その間にいろいろあって、馬場と猪木という樹が残っていく。ただ、馬場さんは力道山遺伝子じゃないと思うんですよ。その後は、長州力とかアマレス出身のグループが出てきて、DNAを違う方向に持っていった部分もある」

 プロレスと格闘技は混然一体でありながら、「ツリー(樹)」になぞらえて流れを整理した猪木さん。「プロは戦っていくら。格闘技の場合、そのチャンスが1年に1回だけとなると、それを待っている間に人生終わっちゃうんですよ。だから、PRIDEにしてもK-1にしても土俵がたくさんできたのはいいこと。プロレスの場合は毎日戦う場所があって、米国だけでなく、欧州、韓国、さらに武術の本家である中国がドアを開けてくれれば今後、とんでもない市場に変わっていく。プロの格闘家だって、試合数の多いプロレスに目を向けてくる。逆に、プロレスラーが格闘技もやるとなれば、それは最高の形。その中で格闘技が進化していく」と興行論も語った。

 「プロレスの強みとは何かというと、あるルールにのっとって、必要以上のダメージを与えてはいけないということ。そこには問われる部分があるかもしれないけど、プロレスの強みでもある。大衆から見た時に、米国ではPRIDEやUFCのようなものはテレビで放送できないんですね。専門チャンネルでしか放送できない。大衆的なものとマニアックな世界はどうしても別れている。だから、米国でUFCがマニアックなものとして価値を光らせても、バスケットボールやアメフットのようなメジャーな大衆スポーツになることはないと思う。そこで、格闘技の大衆化を考えた時にはプロレスの強みも切り離せない。そこは1本の『樹』としてつながっている」

 今回、猪木さんの追悼興行に参戦する元K-1ワールドGPスーパーフェザー級王者の木村〝フィリップ〟ミノルは「ブラジル人なので猪木さんはヒーローのような存在」と敬意を表した。格闘家にも引き継がれている闘魂の遺伝子。猪木さんの思いは今もリングに生き続けている。

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