スーパー戦隊シリーズ「暴太郎(あばたろう)戦隊ドンブラザーズ」(テレビ朝日系、毎週日曜・午前9時30分)が、後半に差し掛かってきた。主人公の桃井タロウ(ドンモモタロウ=レッド)とライバルである脳人ソノイは死と復活を経験してパワーアップを果たす一方、鬼頭はるか(オニシスター=イエロー)の漫画盗作問題、桃谷ジロウ(ドンドラゴクウ/ドントラボルト)と五色田介人(ゼンカイザーブラック)の出自、ドンムラサメとマザー、獣人など、未解明の謎は増殖していくばかり。23日放送の第34話までを受け、批評家の切通理作氏に所感を聞いた。
ウルトラマンをはじめ特撮ヒーロー作品への著述で知られる切通氏は、15話までの段階では「自分が特撮ものをジャンルとして好きだからとか、観るのが半ば仕事だからとかじゃなくて、純粋に『次はどうなるんだ』と先を、先をと食い入るように見たくなってしまう」と語っていた。この日は平成仮面ライダーの初期など多くの有名特撮、アニメ作品を担当したメイン脚本を担う井上敏樹氏の過去作品を踏まえ、次のように語った。
「すごく才能のある人のギラギラした時期の作品ではなくて、円熟のさばきを見せられているようです。作中でのゲーム、料理、絵画、同じ事を繰り返して少しズラす…『超光戦士シャンゼリオン』を筆頭に、メインライターではなかったけれど『鋼の錬金術師』『仮面ライダーカブト』の脚本担当話などで見たような小ネタや回し方を思い出しました。これまでの井上作品から、こういう引き出しを使っているのだな、と考えるのが面白い。中盤の展開は一見グダグダに見えますが、そのグダグダが楽しくて、安定していますよね」
34話では雉野つよし(キジブラザー=ピンク)の妻・みほが、犬塚翼(イヌブラザー=ブラック)の恋人・夏美の記憶を取り戻し、犬塚と駆け落ちのように雉野の元を去る展開に。ラストでは雉野が指名手配犯である犬塚の情報を警察に渡し、逮捕、連行される犬塚を冷笑する姿が描かれた。みほは獣人であることが明らかになっている。
切通氏は「まだクライマックスに向けて、一つ一つ(の伏線)に決着をつける段階ではありません」と断った上で「中盤では小ネタを出しながら話を広げていますが『仮面ライダーアギト』のように、全ては回収されないような気がします。ジロウとかムラサメなどは、よく分からないまま終わってしまうかもしれないと不安になったり。それでも、さすがに雉野と犬塚の対立と、彼女のことには決着をつけてほしいですよね」と希望を口にした。そして、欲望が暴走した人間が変身する怪人ヒトツ鬼に二度姿を変え、妻のみほを溺愛する雉野は、序盤から注目しているキャラクターでもある。
「近年のヒーローものは、視聴者が自分の生活で学校や仕事を頑張ることと、テレビの中でヒーローが戦うことが、あたかも重ね合わされているような、前向きに頑張って成長しよう、みたいなところがちょっと露骨すぎるくらい前面に出ている印象があります。そこで行われている事は本来戦争や命のやり取りに通じるんだけれども、その要素は薄められています。たとえばゲストの人間が怪人になって、ヒーローからその毒素だけをやっつけられて、元の人間に戻るパターンもそうです。ただしドンブラザーズでは、ヒトツ鬼をヒーローが倒すと毒素が抜けて元の人間に戻りますが、能人が倒すと人間ごと消去されて、それは〝死〟を連想させます。雉野は、ヒトツ鬼が能人に倒されるようにあえて〝見殺し〟にする場面が描かれ、最新の34話では犬塚を警察に売ったように、いたるところで『人間の悪意』をチラチラ見せています。この面白い設定やヒーロー側である雉野の暗部を使って、命を奪うとはどういうことか、という所にまで、シリーズの決着とともに迫ってくれたらうれしいですね」
作中では戦士たちが「いつまで戦うのか」「人間の欲望からヒトツ鬼が生まれるなら、人間の欲望はなくならないから、戦いは終わらないのでは」といった趣旨の疑問を口にする場面があった。
切通氏は「通常なら戦いをウラで仕向けている存在が途中で明らかになって、ラスボスを倒しにいきますが、ドンブラザーズの場合は、それだと面白くならないような気がします」とし、「本当に他愛のない理由で人間が怪人に変身していて、他愛のない理由なのに、ヒーローの身近な人間だけが、1話につき一人ずつ怪人に変身するなんておかしいですよね。あの理由で変身するのなら、街中がヒトツ鬼だらけになってもおかしくない。それでも作り手と受け手の『そんなもんでしょ』『お約束でしょ』という、なあなあの関係を越えて、『実は…』という部分が描かれたらうれしいですね」と語った。
史上初の男性戦士によるピンク、CG処理によって戦隊の身長がバラバラであること、いまだイヌブラザーの正体がメンバー間で知られていないこと、全員そろった変身シーンがないことなど、戦隊ヒーローの常識を超越した設定と展開で話題を集めてきたドンブラザーズ。終盤に向けて、さらなる加速が生じるのか。新たな展開と謎の解明が待ち遠しい。