冥王星には「氷の火山」があるのではないかという説がある。米航空宇宙局(NASA)は2015年に無人探査機「ニューホライズンズ」が観測した結果、2カ所で火山のような地形を発見したと発表している。女優でジャーナリストの深月ユリア氏が最新の科学専門誌を通して、専門家たちの見解をまとめた。
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科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」(22年3月29日付)によると、NASAの探査機ニューホライズンズが15年に撮影した冥王星の画像から、巨大な氷の火山のような地形が確認されたという。
研究チームによると、氷の火山は300キロメートル×600キロメートルという広大な面積を持つ。 観測された火山の中でも特に大きなものは、「ライト山」(標高4-5キロ、幅150キロ)と「ピカール山」(標高7キロ、幅225キロ)。冥王星の表面はマイナス232度で、それまで冥王星は熱を有さないと考えられていたので、これが「氷の火山」なら画期的な発見である。
研究チームによると、「太陽系のどこを探しても同じ地形は見当たらない」と「複数の火山ドームが膨らむにつれて結合していったのでないか」と予想される。論文の筆頭著者でサウスウエスト研究所(米国)の惑星科学者、ケルシ・シンガー(Kelsi Singer)氏は「これまで冥王星の中心部は、核の周囲を窒素やメタンの分厚い氷が覆っており、熱をほとんど有さないと考えられていた。しかし、 氷の火山が広範囲に存在しているとすると、冥王星の表層近くは相当な熱が必要となってきます。 冥王星内部のどこかに断熱層があり、そこに熱を蓄えられるのかもしれません」と指摘する。
さらに、シンガー氏は「氷の火山によって押し出された物質も、窒素とメタンではなく、水である可能性があります」という。なんと、冥王星内部が想像以上に暖かく、水もあるとすれば、もしや冥王星に生命が存在している可能性もあるではないか?しかし、同氏は生命が存在する可能性については「冥王星で生物が生存するには複数の問題があります。安定した栄養源と熱や水の供給も必要になりますが、冥王星は不利な環境にあります」と懐疑的な見解を示す。
可能性はゼロではないが、冥王星の凍てついた環境は生物が生存するには、あまりに過酷だ。研究チームによると、冥王星の氷火山も、地下から水を地表へ運ぶ際に、あまりの寒さゆえに噴出した途端に氷になってしまうので氷火山が形成されていったのではないか、という。そして、氷火山群は1億-2億年前まで活発だった可能性が高いという。なお、今回の発見に関して一部の研究者達は懐疑的だ。
ウィートン大学(米イリノイ州)の地質学教授・ジェフリー・コリンズ(Geoffrey Collins)氏は強い関心を示しつつ、疑問点を示す。
「冥王星のライト山は群を抜いて奇妙ですね。しかし、地球の火山のように火口から物質が流れ出て形成されたものではないかもしれません。頂上にカルデラはなく、火山ドームが重なってパッチワーク状になっていて、その上にさらに凸凹があり、特に中心の穴は非常に大きいのです」(コリンズ氏)。
発見された映像が「氷の火山」だという確証を得るためにも、シンガー氏は今後の研究に意欲を示す。「将来のミッションで探査機を送ったとしたら、氷を貫通するレーダーで直接内部を覗き込めるでしょう。火山の配管の様子なんてものも見られるかもしれませんね」(シンガー氏)とのことだ。
青い空に赤い「氷の火山」があり、その名前(「冥王星=プルート」・ギリシャ神話で冥界の神)の通り、実にミステリアスな冥王星だが、今後の研究に期待したい。