東京都福生(ふっさ)市で、昭和の古き良きパチンコ店を再現したレトロゲームセンター「タンポポ」がファンの人気を集めている。昭和末期~平成初期のレトロパチンコ・パチスロ機約90台を設置。軍艦マーチや店員のマイク放送など、パチンコが一番アツかった頃のホールの雰囲気を醸し出す。共同オーナーのひとり・ひげ紳士さんは「レトロ台が持つパチンコ本来の魅力を伝えたい」と意気込む。
福生駅前のひなびた商店街に、やけに活気がある一角があった。1953年(昭和28)に開店したパチンコ店の外装や内装を、奇跡的にそのまま残す〝昭和のテーマパーク〟。昭和のアイドルソングや、客をあおるマイクパフォーマンスが店外に漏れ聞こえてくる。羽根モノ、権利モノ、デジパチ、アレパチ、一発台…。今ではパチンコ店から消えた昭和58年~平成2年ごろにかけての人気機種が、今でも現役だ。
パチンコ店での稼働機は規則で厳格に撤去期限が決まっており、レトロ機をホールで遊ぶことはできない。「タンポポ」は、景品交換ができないゲームセンター。令和の今も、貴重な台がフル稼働している。1時間1000円、3000円で終日打ち放題のサブスク方式。北海道から沖縄まで、全国からファンが来店する。
同店を共同運営するのは、埼玉県幸手(さって)市のパチンコホール「幸手チャレンジャー(幸チャレ)」のオーナー・ひげ紳士さん。YouTubeの人気動画「パチンコ店買い取ってみた」で知られ、チャンネル登録者数は約10万人に達する。ホールの売上などパチンコ店経営の舞台裏や、レトロ機に対する思いをYouTubeやニコニコ動画、著書「ひげ紳士の挑戦記~大衆娯楽を取り戻す~」で語り、ファンとも積極的にコミュニケーションを取る。
ひげ紳士さんは80年代後半、高校中退後にパチンコ業界入り。複数店舗で店長を経験した。2011年の東日本大震災を機に一度は業界を離れたが、2012年に幸チャレを買い取り、パチンコ店のオーナーに転身。2020年7月に3人の共同経営で「タンポポ」をオープンした。
懐かしのレトロ機だけでなく、昭和末期~平成初期のホールの空気感を再現している。「ラッキー台」「打止台」などの札や、昔ながらのナンバーランプも点灯。景品には交換できないが、客にドル箱を運ばせ、出玉のレシートも発行する。時間制打ち放題なので勝ち負けはなく、あの頃に熱中したパチンコ台を思う存分遊べる。純粋に「パチンコを楽しみたい、遊びたい」というファンのニーズに応えている。
娯楽の王様と言われたパチンコをよみがえらせたいと、昭和のパチンコ店でよく見られたさまざまなアトラクションをタンポポで仕掛ける。ギャンブル場に近くなった今のパチンコホールは、大衆娯楽とかけ離れているとしたひげ紳士さんは「パチンコの文化をきちっと残したい。こづかいの範囲で遊べる大衆娯楽としてのパチンコを復活させたい」と熱く語った。
30年以上身を置く業界への恩返しとして、減少し続けるパチンコ人口を増やすことに使命感を燃やす。「若い世代に広めることは無理だと思うんです」とするひげ紳士さんは「昔やっていた人を戻すというか、復活させること。僕らの世代でやめた人、昔やっていた人に忘れないでもらうこと。パチンコに触れていてほしい」。純粋にパチンコを楽しんでいたタンポポの客は、みんな笑顔だった。