新型コロナウイルスの新規感染者数が激減している日本だが、世界に目を向けると、まだ終息にはほど遠い。一時はコロナ対策が評価されたドイツでの感染急拡大も深刻だ。ベルリンを拠点とし、日本に帰国中のバーレスク・ダンサー「エロチカ・バンブー」こと野口千佳さんに都内で話を聞いた。今月、初の自伝「エロチカ・バンブーのチョットだけよ」(東京キララ社刊)を出版した千佳さんから見た現地の人たちの「日常」とは?
千佳さんは都内の美術大学に在学中の1984年にダンサーとしてデビューし、関西を拠点に国内各地のキャバレーなどに数多く出演。2001年に渡米し、03年にはラスベガスで開催されたコンテストで優勝して全米ナンバーワンのバーレスク・ダンサーとなった。08年に帰国して東京で活動したが、11年の東日本大震災を機に、英国人のパートナーが育ったベルリンに移住して今年で10年になる。
ドイツ衛生当局は11月4日、同日における過去24時間の新規感染者が3万3949人で、昨年春の流行拡大以降最多と発表した。ワクチン接種完了者は人口の66・9%で、接種を終えていない人の間で感染が急拡大。今春から夏にかけて接種件数が急増して新規感染者が大幅に減ったものの、接種ペースは今秋になって低迷しているという。
ドイツがロックダウンされた昨年、千佳さんはブログに思いをつづった。アンゲラ・メルケル首相による「芸術を守り、フリーランサーを決して見捨てない」という宣言を心強く感じ、実際、コロナ禍の中、国籍に関わらずフリーランサーへの補助金が即日振り込まれた。そして、ベルリンは自由に生きる人たちが助け合う街だった。
「ベルリンは東京ほどの都会ではなく、緑が多い。コロナ禍でも距離を取ってピクニックしたり、公園で日光浴して、ビール飲んで、歌ってる。東京みたいにモノが氾濫していないので物欲もあまり沸かず、買い物という選択肢がなく、公園で日なたぼっこ。仕事せずに、どうやって生活してるんだろうと思うくらいですが、住居も安いし、大人同士が部屋をシェアしたり、どうにか生活できるので、自由人、芸術家が多いです」
「ホームレスの人には、飲み物や食べ物が『自由に持っていってね』という添え書きと共に壁にかけられている。生活保護がベルリンは普通。いや〝保護〟という言葉でなく、生活助成金みたいな。私もアパートで卵や砂糖の貸し借りをしたりとか、昔の日本にあった長屋の人たちみたいな感覚で、『いいから持っていきな』という温かみのある助け合い精神を感じます」
日独での政治意識の違いも感じる。千佳さんは「ロックダウンしても、だから何?みたいな。ベルリンは日本とあまりにも感覚が違う。感染者が多くても、公共機関以外ではマスクをしなくてもよいという法律があり、それが普通になっている。ロックダウン後も『家賃上げるなデモ』と同時進行で『マスク反対デモ』が起こった。人が黙っていないという感じですかね。それで実際に政治が動いちゃうんで。日本の場合は、よく分からないけど、デモをしても世の中変わるんだろうか?という感じなんでしょうか。とはいうものの、私はデモ自体には興味ないのですが」と語る。
9月に行われたドイツ総選挙の投票率は76・6%。11月に行われた日本の衆院総選挙の投票率は戦後3番目に低い55・93%で、18-19歳は約43%。ドイツで10代の投票率は70%近い。政治の主役は国民であり、自分たちが動かすという意識がある。政府の方針に異論があれば同調しない。日なたぼっこする「自由」を大切にする。
「夏はスッポンポンで公園に寝転がってね。私もベルリンに住んだ最初のうちは、こんなにサボっていていいんだろうかと思ったけど、10年もいたら、これでいいのだという感じになっちゃいました。日本の人は働き過ぎなのかな。日出(い)ずる国の日本人に今必要なのは、お日様かもしれません。15歳になる私の娘には(太陽光を意味する)『ソーラ』と名付けましたから。今はベルリンで別々に暮らしていて、時々、変な日本語でメッセージくれます(笑)」
今月は東京でイベント出演が続く。「日本全体のイメージは閉塞感がありますけど、東京には面白いものが渦巻いている。都内にも家が欲しいと思って探しています。そうやって世界中を『「チョットだけよ』と回りたい。北朝鮮にも行って、躍りはできなかったけど、見るもの全てが面白かった。呼ばれたらどこでも行きますよ。私は旅芸人だと思っています」。コロナ対策も万全に、お日様を求めて世界で踊る。