映画賞でも注目の作品「空白」公開 作家性のある監督と脚本賞の意義

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「空白」のワンシーン。古田新太(左)と松坂桃李
「空白」のワンシーン。古田新太(左)と松坂桃李

 特に今年公開作で評価が高い作品を挙げると、1月に公開された綾野剛主演のヤクザの絆と半生を描いた『ヤクザと家族 The Family』は、藤井道人監督によるオリジナル脚本。コロナ禍で窮地に立たされるシングルマザーを尾野真千子が演じた『茜色に焼かれる』と、韓国で人生を模索する兄弟を池松壮亮とオダギリジョーが演じる『アジアの天使』という2作品はともに石井裕也監督のオリジナル脚本です。

 それだけでなく、役所広司主演による『すばらしき世界』は、直木賞作家・佐木隆三のノンフィクション小説を見事なまでに物語として書き換えたほぼオリジナルと言える西川美和監督による脚本であり、本年度カンヌ国際映画祭で日本映画初の脚本賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の短編小説を濱口竜介監督が3時間に及ぶストーリーとして世界観を広げて書き上げた脚本なのです。そして『空白』の𠮷田恵輔監督は、本作以外にも今春公開で『BLUE/ブルー』というボクシング映画をオリジナル脚本で作り上げています。

 実は『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞し、世界的に評価され是枝裕和監督はもちろん、世界で影響力ある監督の一人と言われる黒澤明監督も脚本を書けた人物。当たり前のことですが、どの国の映画賞も個人の作家性や才能を評価するために各部門に細かく分かれています。

 けれど日本では日本アカデミー賞に脚本賞の部門はあるものの、まだまだ脚本賞を持たない映画賞も多く、脚本も書ける監督に監督賞が与えられることが多い状況です。そうなると脚本家にスポットライトが当たらず、結果的に脚本家の育成にもつながらなくなります。

 映画にとって脚本は全体の地図であり、とても重要な役割を果たす存在です。もちろん脚本が書ける監督は重要ですが、日本映画全体のクオリティーを上げるには脚本家の育成が鍵。その一つとしてもっと多くの映画賞に脚本賞を設置して、脚本家の地位を高めることも必要な気がするのです。

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