この映画に正解はない。
言ってしまえば世界に正解なんてないのだと気づいた。
私自身は主人公の行動が理解出来ない。それが本音だ。
でもその理由は自分とはまったく違うからだ。だから映画の中盤までは世の中にはこんなに優しい人がいるんだと感心して見ていた。しかしラストに近づくにつれて頭の中が混乱し、その展開に身体が震えた。ただ私自身が思うことなのだが、世の中に溢れているドラマや映画の主人公は大体にして純粋で真っ直ぐで良識人が多い。しかも善悪がはっきりしている展開のものが多い。けれど本当にそんな人ばかりが物語の主人公でいいのだろうか。世の中には何かを間違ってしまう人の方が多く、失敗を繰り返しながら最善策を見出そうとする人の方が人間らしいのではと気付かされた。
そんな映画を自主制作で作り上げたのは、「神様のカルテ」(2011年)で知られ、第一線で活動を続けてきた深川栄洋監督だ。「あなたの息子ひき出します!」は10/2(金)から全国で順次公開となるのだが、これまでに様々な問題を乗り越えてきた。実は撮影1カ月前にスポンサーが降り、プロデューサーも降りるという事態が発生。よって自宅を抵当に入れてクラウドファンディングも行い、映画をなんとか完成させた。主演の宮澤美保は深川監督の私生活のパートナーであり、本作のプロデューサーと主演という二足の草鞋を履いた。助演の平野ノラは俳優デビュー、他にも天海祐希や柄本明、江口のりこ、大森南朋、ミュージシャンの石崎ひゅーいと、そして撮影を終えて他界した吉行和子といった錚々たる顔ぶれだ。それもこれもきっと深川監督の実績と信頼によるものだろう。
しかしここまでして資金を集めることになった理由は、取り扱うテーマに懸念を示した人が多かったのではないだろうか。確かに[引きこもり]男性の支援を始めた主人公の以前の職業は[売春婦]であり、[性犯罪]についても描いている。こう言葉を並べるだけで、相当攻めた内容になっているのが分かる。しかしリサーチにリサーチを重ね、描くべきではないことは描かず、伝えたいことは様々な角度から描いているので、社会派としても極上であり、頭を叩かれるような衝撃と共に深い学びを得るのだ。だからこそ映画として描く意味を強く感じた。
そんな深川監督が描いた世界は、田舎に暮らす主人公と息子と地元の人々というとても小さなコミュニティで形成されているが、実際は社会の構造だ。主人公を取り巻く世界に登場する人物は様々な考えを持つ人間で、それぞれが自分が正しいと思った生き方をして生活をしてる。だから観客が思っていることを登場人物の誰かが口にしてくれるので、物語の展開に驚きながらも不満を持たない。そのお陰で「自分だったら」という考えで主人公の行動や言動を見つめ、決して悪い人ではない、むしろ寛容な彼女だから嫌にならずに心配なまま、登場人物の誰かが言う文句や疑問を自分の代弁だと思って見守ってしまえる。
ふと思ったのは、普段から人をよく見ているからこれだけの登場人物を必要人物として描き、ワンシーンの登場でも彼らが印象に残る脚本で演出が出来ているのではないか。そしてこの映画は深川監督自身の疑問を詰め込みながら、主人公は特別過ぎない人でもよくて、社会からこぼれてしまいそうな位置にいる人でもよくて、間違えるのが人間で、だからこそ知ることの大切さを描きたくてあの結末にしたのではないだろうか。知らないから嫌悪ではなく、まずは知ることで世界は平和になっていく。だから見て良かったと心からそう思う。辛いが考えさせてくれる。そして世界が平和になる方法を考えられた。これもまた映画の在り方だった。