6月に死去した歌手・俳優の美輪明宏さん(享年91)が出演した数多くの作品の中、幅広い世代に知られる名作の一つがアニメ映画「もののけ姫」(宮崎駿監督)だろう。同作で主人公の声を当てた俳優・松田洋治(58)が8月9日に東京・浜離宮朝日ホールで上演される舞台「ナガサキの郵便配達・朗読と音楽の集い」で出演に加えて、演出を担当する。「8・9」に投下された長崎での原爆の悲劇を描いた作品で、同地で被爆した美輪さんの人生にも重なる。松田がよろず~ニュースの取材に対し、思いを語った。
松田は小学1年だった1974年にデビューし、同年の「仮面ライダーアマゾン」をはじめ、TBS系ドラマ「はじめまして」(75年)で主演・江利チエミさんの息子役を好演。“天才子役”と称された。16歳となった83年にはTBS系ドラマ「家族ゲーム」で長渕剛が演じる家庭教師の教え子役で注目された。
成人後も俳優として活躍。97年に公開され、空前の大ヒットを記録した「もののけ姫」では、当時30歳の松田が主人公「アシタカ」の声を担当した。一方、美輪さんは2本の尾を持つ300歳の山犬「モロの君」を圧倒的な存在感で演じた。
松田は「『もののけ姫』の録音は確か、10回くらい行きました。アニメーション映画のアテレコとしてはかなり多い方です。基本的に各シーンの出演者がそろって行いますが、『別録り』となったのが、森光子さん、森繁久彌さん、そして、美輪明宏さん。森繁さんは絡みがなく、森さんは『一緒に録りたい』とおっしゃっていただいたので、全体録音が始まる前に2人で収録しました。しかし、美輪さんはその時期、芝居かコンサートのツアーに出られていて、後日、お一人で抜き録りされる事になったんです。つまり、あのモロとアシタカの洞窟で対峙するシーンは別々で、しかも私が先なので、美輪さんの演技を想像しながら一人で収録となったのです」と振り返った。
その上で、松田は「でも正直、そんな事(演技を想像しながら~)は不可能だと思いました。美輪さんは私の想像力など、はるかに超えてくるだろうことは分かりきっています。なので、私はシンプルに、アシタカとしてモロと対峙する…その事だけを考えました。仕上がりを聞いて『別録りでよかった』と思ったのは言うまでもありません」と実感を込めた。
その後、松田は大ヒットした米映画「タイタニック」の日本公開時に主演俳優レオナルド・ディカプリオの吹き替えを担当するなど、声優としても長きに渡って多くの作品に参加。テレビ放送の最新作では7月からTOKYO MXほかで始まったアニメ「ワールド イズ ダンシング」に出演中だ。さらに舞台俳優、演出家、後進を育成する専門学校の講師など、その活動は幅広く、多忙な日々を過ごしている。
今回、松田が演出家として手がける「ナガサキの郵便配達~」は英国人作家のピーター・タウンゼント氏が小説に記した「日本人も知らない長崎の原爆の悲劇」を6人の俳優が朗読で読み伝える。「6人」とは阿川佐和子、中江有里、有森也実、魏涼子、長谷川真弓、そして、松田。1部はクラシックギタリストの佐藤洋平とピアニストの増井咲による「ナガサキ組曲」の演奏が朗読に寄り添い、2部では出演者6人によるトークショーがフリーアナウンサー・安東弘樹の司会で行われる。
同作は19年から毎年、8月9日に東京で、タウンゼントさんの誕生日の11月22日には長崎の原爆資料館内ホールで開催されてきた。16歳で被爆した少年の人生を描いた作品だが、8回目の今回は朗読のボリュームを増やし、演奏を今までの管弦楽オーケストラから、クラシックギターとピアノに絞ったという。
今回が初演出となる松田は「今年は昨年よりさらにキャストが華やかになり、私なぞ、もう出ない方がいいんじゃないかとも思いましたが、演出者としては、これだけのメンバーですから何もお願いする事はないんです。ただ、音楽の佐藤洋平さんとお話をして、朗読中にも即興的に(演奏が)入っていただこうと思っていますので、化学変化が起きれば、それに乗ってさらに思いも寄らぬところへ感情が高まっていけば、より素敵な時間になるのかなと思います」と手応えを示した。
美輪さんとの〝別撮り共演”から30年近い時が流れた。先に録音した後、想定を上回る大先輩の出来映えに表現者の底力を感じた。その美輪さんも10歳の時に長崎で被爆した市民の一人。「もののけ姫」から今回の朗読劇へ、もちろん別々の作品ではあるが、松田のキャリアにおいて、演じる者の魂は「長崎」と「原爆」というキーワードで連綿とつながっている。