日本でも公開された「オッペンハイマー」日本人こそ真っ先に見るべき映画では 歴史学者が語る

濱田 浩一郎 濱田 浩一郎
クリストファー・ノーラン監督
クリストファー・ノーラン監督

 アカデミー賞作品賞など7部門を受賞した話題の映画『オッペンハイマー』(監督クリストファー・ノーラン)。「原爆の父」と呼ばれる理論物理学者ロバート・オッペンハイマー(1904〜1967)を描いた伝記映画である。

 本映画は、2023年7月には全米で公開されているが、日本での公開は翌年の3月29日となった。日本上映が見送られていた理由としては、広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンが出てこないことや、米国人の原爆軽視が疑われる「バーベンハイマー」騒動などが影響したとも考えられている。アカデミー賞を受賞する以前より話題となっていた本作を日本公開の初日に、筆者は鑑賞してきた。

 オッペンハイマーたちがどのようにして原爆を開発し、その実験を成功させていくかが物語の1つの山場となる。

 本作は前述したように、広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンは出てこない。その事には疑問の声も寄せられている。「原爆の悲惨さをもっと画面に映し出すべきではないか」と。

 しかし、本作はノーラン監督がインタビューで「オッペンハイマーの目を通して、彼が巻き込まれた気違いじみた、逆説的な状況を追い、目にすることになります」(『オッペンハイマー』ビターズ・エンド、2024年3月29日)と述べているように「オッペンハイマーの目」で基本的には物語が進行していく。

 オッペンハイマーは、原爆投下による凄惨な被害を直接目の当たりにしてはいないのだから、被害状況を敢えて描かないというのも、制作上は理解できる。原爆被害を描かないからといって、本作が原爆投下を軽視しているとの非難は当たらないようにも思う。原爆実験に成功し、歓喜する人々を前にして、オッペンハイマーが空想したのは炎に焼かれる女性の顔であり、黒焦げになった子供の死体であった。

 また原爆の生々しい被害状況を映写で伝えられる場面では、オッペンハイマーは俯き目を逸らし、直視することができないのである。よって、被害の実相(写真など)は映画鑑賞者の目には入らない(これまたオッペンハイマーの視点で物語が進行しているからである)。これは、広島や長崎で被爆された方々には、不満に思われるところであろう。  

 当事者(被爆者の方々)の見方、それ以外の日本人の見方、アメリカ人の見方、アメリカ以外の国の人々の見方…見る人の立場によって、本作を見た感想は変わってくると思われる。

 だが、原爆の被害を受けた日本(人)こそ、本来ならば真っ先に見るべき映画であると感じた。本作を見た上で、様々なことを議論し、被爆の実相を世界に向けて更に発信していくことこそ肝要であろう。

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