大河ドラマ「べらぼう」第27回は「願わくば花の下にて春死なん」。老中・田沼意次の嫡男・意知（演・宮沢氷魚）が佐野政言に斬りつけられる様が描かれていました。「べらぼう」において、佐野は矢本悠馬さんが演じています。
当時、意知は若年寄。一方の佐野は新御番組でした。天明4（1784）年3月24日、意知は江戸城中から退出しようとしていました。その時、佐野が「覚えがあろう」と意知に声をかけます。3度も声をかけたと言います。声をかけただけではなく、佐野は意知に斬り付けます。いきなり斬り付けられたということもあり、意知は負傷しますが、その傷は肩先に長さ3寸、深さ7分というものでした。
時代劇などではよく日本刀で斬り付けられたらすぐにバタッと倒れてしまう、場合によっては死んでしまう光景が描かれてきましたが、人間、刀で刺されてもすぐに絶命することはありません。意知は斬り付けられてから部屋に逃げ込みますが、佐野は尚も意知を執拗に追いかけ、深傷を負わせます。骨に達するほどの傷でした。大目付の松平対馬守が佐野を取り押さえなければ、意知は更に傷を負っていた可能性もあります。「御目付衆！」との声で目付が駆け付け、佐野の脇差を取り上げます。佐野はついに捕えられたのです。
深傷を負った意知は、4月2日に36歳の若さでこの世を去ります。佐野は「乱心」（精神の平衡を失うこと）ということにされますが、意知殺害の理由を縷々述べており、乱心ではないとも思われます（しかし、口上書には偽文書説あり）。佐野が田沼に恨みを持った理由としては、意知に佐野家の家系図を貸したのに返却されないこと。田沼に620両もの賄賂を送ったのに、何もしてくれなかったなどが挙げられています。佐野は執拗に意知に斬り付けていますので、精神錯乱によるものではなく、佐野の憤りが爆発したものだったのではないでしょうか。意知を殺害した佐野は4月3日に切腹を命じられ、28歳で死去します。
（主要参考・引用文献）
・藤田覚『田沼意次』（ミネルヴァ書房、2007年）
