会社や学校などの〝共同体〟にあるトイレは、その〝密室性〟から他人の噂話や評価、時には悪口も吐き出される空間となる。その場に不在だと思って〝悪口〟のターゲットにした当人が偶然、トイレ内の「個室」にいて、その話を聞いた上で目の前に登場した時、どう対応すればいいのか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が、気まずい空気を打開する対策を提言した。
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【今回のピンチ】
会社のトイレで同僚と並んで用を足しながら、上司の悪口を言って笑っていた。その時、個室のドアが静かにオープン。中からその上司が出てきて、無言でこちらをにらんだ……。
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人生には「間が悪かった」としか言いようがない場面が、たまにあります。同僚と上司の悪口を言って盛り上がるのは、会社生活における日常のひとコマ。悪口の内容も、口癖がどうのといった他愛ないものでした。しかし、あまりにも間が悪すぎます。
きっと上司も、個室の中でさぞ困ったに違いありません。入り続けている選択肢もあったのに、わざわざ姿を見せて「聞いてたぞ」とアピールしてきたのは、腹を立てているからか、逆に気にしていないからか……。
その真意はわかりませんが、対応を間違えると、根深い遺恨が残りそうな大ピンチ。どう立ち向かうのが正解なのか。
気まずいからといって、黙って見送るのは最悪の対処です。じつは怒っていなかったとしても、ウヤムヤにしようという姑息な態度に腹を立てるかもしれません。まずは、おずおずと「聞こえてましたよね……。たいへん失礼いたしました」と懐に飛び込みます。
そこで、上司がニヤリと笑いながら「個室に耳ありってことだね」などと小粋なセリフを返してくれたら、おおむね一件落着。「勉強になりました。申し訳ありませんでした!」と、あらためて全力で謝りましょう。
ムッとした表情で「まあな」ぐらいの反応だと、まだちょっと怒っているかも。ここは一か八かの賭けですが、「ぜひ水に流していただけたらと……。トイレだけに」と果敢に言ってみるのも一興です。
「プッ」と吹き出してくれたら、こっちの勝ち。ウケなかったとしても、しこりを残したくないという気持ちは伝わるでしょう。
反応が薄いようなら、捨て身の戦法です。個室のほうに後ずさりしながら、「じゃあ、こうしましょう。私が個室に入るので、二人で私の悪口を言い合ってください」と、上司と同僚に提案しましょう。上司が「そうするか」と同意する可能性はゼロですけど、必死な姿勢は伝わるし、呆れて「もういいよ」という気分にさせる効果はありそうです。
そこまで付き合ってくれずに、手を洗ってさっさとトイレを出ていった場合も、背中に向かって大きな声で「申し訳ありませんでした!」と謝っておけば、しこりが残ることはないでしょう。謝るかどうか迷った末に謝らないのは、苦難の道に続く入口です。
人格否定などシャレにならない悪口を聞かれた場合も、こちらのやるべきことは変わりません。そもそも上司は、部下に悪口を言われるのも仕事のうち。こちらは今までと変わりなく接するとして、もし向こうが露骨に態度を変えてきたら、「ケツの穴の小さい上司だな」と軽蔑してもかまいません。
会社のトイレで同僚と並んで用を足すときは、よかったらこの記事を思い出してください。思わぬ悲劇を招かないように、天気などの無難な話題を心がけたいものです。