セルフサービスのフードコートで注文した品を別の人が持って行くケースがある。そのまま料理が戻ってくることもない場合、途方に暮れたままでは〝泣き寝入り〟になる。そんな時、どのような行動をすればいいのだろうか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏がその対策を提言した。
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【今回のピンチ】
帰省シーズンで高速道路が大渋滞。サービスエリアも激混みである。フードコートで自分のうどんを取ろうとしたら、横から来たご婦人が間違えて持って行ってしまった……。
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最近のフードコートは、モニターに番号が表示されたり、渡された機械がブルブル震えたりします。「あ、できた」と思ってカウンターに。自分が注文したキツネうどんと、もうひとつ天ぷらうどんが並んでいます。
ところが、横から来たご婦人が、何の迷いもなくキツネうどんを持って行ってしまいました。カウンターに残された天ぷらうどん。チケットを確認しましたが、自分が注文したのは間違いなくキツネうどんです。
困ったことになりました。地味だけど深刻なピンチです。さて、どうしたものか。
ご婦人がキツネうどんを手にした時点で、「それ、違いますよ」と言えていたら、ここまで困ることはなかったでしょう。しかし、後悔先に立たず。そのご婦人は、すでにどこかに行ってしまいました。見つけ出して、「そのキツネうどんは私のです。返してください」と言ったところで、もはや手遅れです。
オロオロしている間にも、次々にうどんが出来上がってきます。しかし、ご婦人が注文したと思われる天ぷらうどんは、いつまでも残されたまま……。
客観的には店の人に事情を話して、キツネうどんを作り直してもらうしかありません。しかし、店の人は忙しそうで面倒をかけるのは申し訳ないし、間違えられた時点で何も言えなかった自分に責任がある気もするし、天ぷらうどんの行く末も心配です。
こういう時に悩まないタイプの人もいるでしょう。うらやましい限りですが、悩んでしまう性分は変えられません。考えた上で最善と思える対処法を選ぶのが、突然の災難の被害を最小限に抑える唯一の道です。
丁寧に事情を説明しようとして、店員さんに「あのー、すいません。さっき知らないご婦人が、私のキツネうどんを……」と話し始めるのは、けっしていい方法とは言えません。「この人、なに言ってんだ?この忙しいのに」と思われてしまうでしょう。
当たり前ですが「俺のキツネうどんはどうなったんだ!」と騒ぐのは最悪。店員さんが悪いわけじゃありません。そもそも、どうなったかは知っているので、理不尽に店員さんに八つ当たりしているだけです。
ここは穏やかな口調で、まずは「すみません。キツネうどんがまだなんですが」と告げましょう。店員さんが「えっ?」という顔をしたら、その段階で「さっきご婦人が間違えて持っていったみたいで」と説明して、店のミスではないことを伝えます。
そうすればきっと、無事にキツネうどんを食べることができるはず。ここで大切なのは、店員さんの負担を最小限に抑えつつ目的を達成することです。たぶん捨てられる運命の天ぷらうどんにも心の中で手を合わせれば、功徳を積んだ気になれて、災難に遭ったショックが少し和らぐに違いありません。