中途採用で入社した新入社員のAさんは、実は大学を中退していたが、履歴書には「大学卒業」と記載して採用面接を受ける。これについてAさんは特に罪悪感はなく、「実力主義の会社だし、仕事ができれば学歴なんて関係ないだろう」と思っていた。
しかしAさんは、入社手続きの一環で卒業証明書の提出を求められ、提出できずに嘘が発覚してしまう。人事部長からは「これは重大な経歴詐称だ。懲戒解雇も検討する」と告げられ、Aさんは事の重大さに青ざめた。
履歴書の嘘が入社後にバレた場合、どのような処分が下されるのだろうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いた。
ー履歴書の学歴や職歴、資格などを偽る行為は、法的にどのような問題がありますか?
まず法的に問題となるのは、労働契約の前提となる条件を偽って契約を結んだという点です。特に深刻なのが賃金の問題です。多くの日本企業では、給与テーブルが最終学歴によって明確に区分されており、例えば大卒初任給が25万円、高卒が22万円といった差が設けられています。
もし高卒であるにもかかわらず大卒と偽って入社し、本来受け取る権利のない高い給与を長期間受領していた場合、会社側はその差額を「不当利得」として返還請求することが可能です。これは単なる倫理的な問題にとどまらず、金銭的な損害賠償にも発展しうる重大な契約違反行為となります。
ー経歴詐称を理由とした「懲戒解雇」は、法的に認められますか?
認められる可能性はあります。過去にも、経歴詐称が懲戒解雇の正当な理由として支持されたケースはありました。ただし、すべての詐称が即解雇につながるわけではなく、その内容が「経歴を詐称していなければ採用していなかった」と言えるほど重大であるかが争点となります。
今回のケースのような最終学歴の詐称は、企業の賃金体系や人事制度の根幹に関わる重要な要素です。単に個人の信頼を損なうだけでなく、企業の秩序を乱す行為として捉えられるため、懲戒解雇という重い処分が有効と判断される可能性は高いと言えます。
ー単なる「見栄」程度の嘘でも解雇されるのでしょうか?
その「見栄」が業務遂行に直結するかどうかが分かれ目です。例えば、「前職でリーダーシップを発揮した」といった主観的な表現の誇張であれば、程度問題にもよりますが立証が難しく、即解雇までは困難かもしれません。
しかし、海外事業部での採用においてTOEICの点数を偽ったり、営業職として採用されたのに実際は事務職で営業経験が皆無だったりと、採用の決め手となったスキルや経験を偽っていた場合はアウトです。これらは「重要な経歴の詐称」にあたり、解雇の正当な理由となります。
また、仮に嘘をついて入社できても、実力が伴わなければ本人が苦労するだけではありません。最終的には職も信用も失うことになるため、経歴は正しく伝えましょう。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。