高校野球好きが高じて夏の甲子園歴代優勝63校のユニホームを収集した"激レアさん"が岡山市にいる。元テレビ局のディレクターでフリーライターの石原正裕さん(65)がその人。熱意とつながりをいかし、約10年をかけてコンプリートし、この17日から甲子園に近い神戸市の百貨店で展示される。一体、どんなものがあるのか。コレクションの一部を紹介する。
◆甲子園の土がついたユニホーム
これだけそろうと壮観だ。集められたユニホームの数々は時代の流れを映すとともに、あの日、あの時の感動を甦らせ、選手の息遣いまで聞こえて来そうだ。マニアックな高校野球ファンならずともたまらないのではないか。
なかでも、石原さんのお気に入りは2010年に優勝した興南(沖縄)のもの。レギュラー選手の親戚が保管していたものを知人を通して「お譲りしますので値段を付けてください」と言われ、購入したそうでユニホームの一部には「第92回大会出場」と血統書のようなタグが付き、背中にはスライディングをした際の土の痕跡と背番号を縫った針の穴が残る。
「あの夏、島袋投手が投げていた優勝戦で間違いなく着られていた。そう思うと貴重ですよね。やっぱり着たものが一番」。声のトーンが一段上がった。
◆「人との縁やつながりがあってこそ」
習志野(千葉)のユニホームにも特別感があるという。知り合いにボランティアで全国47都道府県の審判をしている奇特な人がおり、その人が習志野の元監督からお礼に渡された1着。それが「研究に使ってください」と幸運にも石原さんのところへ回って来た。
「人との縁やつながりがあって、集めることができました。私と同じようなマニアの方がいて情報を交換したり、ネットオークションや運動具店から話が届いたりしますが、やっぱり一番はご縁だと思います」
◆高校野球マニアが55歳のときにユニ収集家へ
そもそも石原さんがユニホームを集め始めたのはRSK山陽放送の管理職を外れた55歳のころだそう。そこからわずか10年ちょっとでレプリカを含め800着以上を集め、岡山の高校はもちろんのこと、夏の甲子園歴代優勝校のものまでコンプリートしてしまった。
「子どものころから甲子園の開会式が好きで、様々なユニホームを見るのが楽しみでした。それがずっと蓄積されて、いまに至ったんでしょう」
出身は香川県。10歳から始めた野球は中途半端な形で終わり、そこからは熱心な高校野球ファンに。その後は放送局のディレクターとして長年、野球中継にも関わったが、形になるものを残したくなった。
「何かで1番になりたいと思い、そのとき、ユニホームを集め、調べて伝えられたらおもしろいんじゃないかと思ったんですよ」
◆最初の1着は古着屋での偶然の産物
このとき、日本で数少ないユニホーム研究家が誕生したわけだが、歴代優勝校の最初の1着は偶然の産物だったそうだ。普段からビンテージものが好きだったことからたまたま立ち寄った関西の古着屋で第1回大会優勝、京都二中の流れをくむ鳥羽(京都)のユニホームを発見。袖に書かれた京都二中を意味する「KSMS」を見て「歴史を刻み、大切にされているんだ」といたく感動し、収集の勢いが一気に加速した。
「最初の1枚が夏最初の優勝校。1着、また1着と集めていくうちに、この感じなら全部集まるやん、と手応えをつかんだんです」
そこからはさらにアンテナを張り巡らせ、様々なイベントに出席。それぞれの野球部OB会などとパイプを広げた。甲陽(兵庫)のものは元監督から譲り受けたそうで、そのお返しにRSK山陽放送に所属していた女子ゴルファー渋野日向子のサインを渡した。そして3年前の12月、同じ旧制中学の呉港(広島)を最後に、全63校の収集を完結させた。
◆時代や地域性を映し出すユニホームから見えてくるものは?
最初に興味を持ったのはデザイン。戦前は白地に紺色のシンプルなものが主流で、その後は東京六大学などをベースにしたユニホームが広がって行く。60年代から色使いが派手になり、肩のワッペンなどにも工夫が見られるように。また70年代に入ると東海大相模(神奈川)に代表されるようにストライプ柄も増えた。さらに、見えてきたのは生地や縫製などの細かい部分だ。
「厚手のものからざらざらしたもの、さらにメッシュへ。裁断や縫製も昔のものは雑で時代を感じます。いまは昇華転写プリントが主流で軽さや機能性を重視していますね」
古豪・中京大中京(愛知)は3代のユニホームを入手。また愛知一中(現旭丘)の二本線の入ったピルボックス帽などユニホーム以外も収集した。横浜や慶応などの神奈川県勢に見られる豪華なエンブレムや高松商(香川)のストッキングの色とライン数の変遷にも注目した。
◆ユニホームは選手の晴れ着
「ユニホームひとつ、ひとつに特徴があり、ドラマや伝統の重みがある。例えば作新学院のものは前ボタンをとめて着るように見えますが、実は上の3つ以外は飾りボタン。栃木代表ということで袖のエンブレムには甲子園出場回数を意味する星がついる。また仙台育英は慶応のものを模していますが、育英の方が胸のマークを金色で刺しゅうしており、豪華に見えます」
集められた品々は7月17日から29日まで神戸阪急本館9階で開催される「阪神甲子園球場100周年記念展」の中で展示される。石原さんは「最近は特殊なプリントを使って軽量化し、機能性を求めていますが、ユニホームは球児にとっては晴れ着。装飾は残っていってほしい。今後もユニホームの歴史や文化、地域性を伝え、そうすることで野球離れを止め、活性化に少しでも貢献できれば」と話した。
現在は全国各地で予選が繰り広げられ、8月7日からは甲子園で全国高校野球選手権大会が開幕。今年も熱い夏が始まるが、ユニホームに対する見方が変わるかもしれない。