【坂上暁仁氏あいさつ(一部省略)】
子どもの頃から漫画を描いてきて、プロとアマの境目が分かりませんでした。この度、栄えある賞をいただいたことで、ようやく自分は漫画界の中にいる、と胸を張って言えると思います。手塚治虫さんに憧れて漫画を描き始めたので、子どもの頃からの夢が叶えられたようで嬉しいです。
「神田ごくら町職人ばなし」は、いろんな偶然が重なってできた作品でありまして、2017年に立川談志落語「死神」を題材に描いた漫画が、ちばてつや賞入選をいただきました。ちば先生から「もっと貧乏な生活感を描けたらいいね」と指摘を受けました。そこから、その意味について深く考えてきました。
大学時代から一緒に同人漫画誌「すいかとかのたね」を作り続けている友人たち、親族の助力があり何とか漫画活動を続けられて、現担当の中川(敦)さんとお会いできました。そのときに「画力に振り切った作品を描いてみたらどうか」という話を受けまして、画力に振り切るとストーリー、キャラクターが全部抜け落ちてしまうけれどいいですか、と聞くと「いいですよ」ということでした。画力に振り切った作品を作った結果、桶屋がただ桶を作るだけのお話ができました。リイド社の「コミック乱」で描き始めたんですけれども、担当さんや出版社の方々が気に入ってくれて、続きを描くことができました。
何人かの職人さんや、金沢市の金沢職人大学校を取材に伺ったんですけど、職人さんは普通の人が目をやらないところまで創意工夫を行っていて、そのこだわりは個人の感性からくるものもあれば、伝統を受け継ぐという意志、両方があると感じました。金沢市の前の市長さんがおっしゃっていた「伝統もかつては革新から来ている」という言葉を僕はとても好きです。
今は職人さんのなり手がとても減ってしまっていると聞きますが、もし自分の作品で、少しでも職員さんの世界の魅力をエンターテイメントとして描くことができて、それでご興味を持っていただけるのであれば幸甚に存じます。実は今日、大荷物で来たんですけど、明日から島根に行って、たたら場で鉄を作ってまいります。今日はありがとうございました。