デビュー作で貧困、差別、格差描く漫画家の学びと実践の結晶『生活保護特区を出よ。』

山本 鋼平 山本 鋼平
『生活保護特区を出よ。』の一場面
『生活保護特区を出よ。』の一場面

 リイド社のトーチwebで連載中の『生活保護特区を出よ。』は、社会的弱者が暮らす生活保護特区を舞台にした物語です。今作でデビューを果たした、まどめクレテックさんに話を聞きました。

 舞台は2018年。1945年の大戦後、復興都市〝新都トーキョー〟と自立能力の欠乏者を保護する〝生活保護特区〟が作られた日本。トーキョーの中流家庭で育った高校生・フーカに、国勢調査テストの結果、保護特区への移住を要請する「特区通知」が届きます。

 まどめさんは「本作の大前提にあるのは、人間は一人では生きていけないということです。人間は今、生きている時点で否応なく『社会の一員』であると私は考えます。例えば、身寄りや友人が一人もおらず自炊能力のない独居者であっても、誰かが工場で作り誰かが店で売っているコンビニ弁当を食べたりして生命を維持している。私たちのパーソナリティーは、実は社会と密接に関わっていて切り離す事ができません。社会に傷つけられ、逆に救われながら生きる個人の多様で繊細なディティールを表現していきたいです」と話しました。

 生活保護特区は有り体に言えばドヤ街です。弱者の中でも存在する格差、貧富の差、自死を選ぶ者や精神障害が〝日常〟として描かれます。まどめさんは大学で文化人類学を専攻し、中央アジアに出向き、佐渡島のフィールドワークを行ったそうです。また、貧困と格差に関心を持ち、ホームレス、生活保護や障害年金の受給者、身寄りのない者ら社会的弱者と呼ばれる人々との交流を、自らの社会生活の足場としているとのことでした。

 まどめさんは「自分の身近な人々とその暮らしを誠実に描きたいというのがまずあって、作品の設定はそこから来ています」と言います。保護特区で主人公フーカを気に掛け、自殺未遂を重ねる友人は「サダカ」という名前です。これはイスラム教で自由喜捨を表す言葉です。橋のそばに住む路上生活者として登場する「オオハシさん」という名前についても、「彼らは本名を使わず、最寄りの駅名だったり環境を通名にすることがある」という事実に基づいたもの。海外にルーツを感じさせるジヨ、フランというキャラクターの名前から、まどめさんの視野には「移民」もあることがうかがえます。また、保護特区独自の神「ウル」の存在が提示され、フーカたちは祭りに向けて奔走します。「食料や水や電気や医療などと同様、宗教も人間の社会生活と密接に関わっていて、祭りを通してそうしたことも描いていきたい」と話してくれました。

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